QMSとは
はじめに、QMSの概要や目的、EMSとの違いについて解説します。
QMSの概要
QMSとは「Quality Management System」の略であり、日本語では「品質管理システム」や「品質マネジメントシステム」と呼ばれます。QMSは、日本産業標準調査会(JISC)によって以下のように定義されています。
品質に関して組織を指揮し、管理するためのマネジメントシステム
参考:品質マネジメントシステム(QMS)
マネジメントシステムとは、企業などの組織活動を管理するための仕組みを指します。
つまりQMSは、企業などの組織が商品やサービスの品質を継続的に維持・向上させていくための仕組みといえるでしょう。
QMSの目的
QMSの大きな目的は、商品・サービスの品質を高め、顧客満足度の向上を実現することにあります。
QMSにおける品質の高さとは、必ずしも高級品や機能性の高いモノを指すわけではなく、いかに顧客ニーズを満たす商品・サービスを提供できるかが大事なポイントです。
そのためには、作り出す商品・サービスの品質を安定させ、不良品を生み出さないことが重要となります。
EMSとの違い
QMSと似た用語としてEMS(Environmental Management System)があります。EMSとは「環境マネジメントシステム」のことであり、日本産業標準調査会(JISC)は以下のように定義しています。
全体的なマネジメントシステムの一部で、環境方針を作成し、実施し、達成し、見直しかつ維持するための、組織の体制、計画活動、責任、慣行、手順、プロセス及び資源を含むもの
参考:環境マネジメントシステム(EMS)
QMSとEMSはどちらもマネジメントシステムの一種ですが、QMSは商品やサービスの品質を管理するのに対し、EMSは組織の環境負荷を管理する点で違いがあります。
QMSの主なメリット
続いて、QMSの主なメリットとして、以下の3点を解説します。
- 商品・サービスの品質向上
- 顧客満足度の向上
- KGI・KPIの明確化
商品・サービスの品質向上
QMSの主なメリットとしては、まず商品・サービスの品質向上が挙げられます。
QMSによって商品・サービスの品質を維持・向上させるための仕組みを整備できるため、品質の安定化を図ることが可能です。
たとえば、製造業の製造工程で不良品を生み出すリスクのある工程を検出し、改善を行うことで、不良品率の低下を実現できるでしょう。
顧客満足度の向上
商品・サービスの品質向上の結果、顧客満足度の向上につながる点もQMSの大きなメリットです。
企業などの組織でQMSを実践することで、顧客の求める品質レベルの商品・サービスを安定的に提供できるようになります。
たとえば、メーカーが製造する商品の不良品率が下がることで、顧客からのクレームが減少し、結果として顧客満足度の底上げが期待できます。
顧客ニーズを満たす品質レベルの商品・サービスを提供し続けることで、企業に対する信頼感も高まり、企業収益の安定化につながるでしょう。
KGI・KPIの明確化
QMSのメリットには、KGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)やKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)を明確化できる点も挙げられます。
KGIは企業などの組織の最終的な目標を指し、KPIはKGIを達成するうえで重要となる指標を意味します。
QMSにおいてKGIは「顧客満足度の向上」となることが一般的であり、KPIは顧客満足度の向上に結びつく「不良品率の低下」などが該当します。
QMSを構築・導入することで、KGIやKPIを明確に設定することにつながり、効率的に組織活動を行えるようになるでしょう。
QMSとISO 9001との関係性
ここでは、ISO 9001の概要やQMSとの関係性、ISO 9001認証取得の手順・メリット・注意点について解説していきます。
ISO 9001の概要
ISO 9001とは、国際標準化機構であるISO(International Organization for Standardization)が定めたQMS(品質マネジメントシステム)に関する国際規格です。
製造業などで品質管理や品質保証の考え方が普及していったことを背景に、これらの取り組みを国際的に規格化するために1987年に制定されました。
現在では世界で170ヵ国以上・100万以上の組織が利用しており、マネジメントシステム規格のなかでも最も国際的に浸透しています。
QMSとの関係性
QMSは商品やサービスの品質を向上させていくための仕組みであり、そのための国際規格としてISO 9001が存在します。つまりQMSを構築・導入するうえでガイドラインとなるものがISO 9001であるため、両者は密接に関係しているといえるでしょう。
なお、QMSに関連する規格としては、他にもJIS Q 9001やSQF(Safe Quality Food)などが挙げられます。JIS Q 9001はISO 9001を日本国内向けに和訳したものであり、内容はISO 9001と同様です。
SQFは食品安全に関する規格であり、食品の衛生管理などを担う食品メーカーや飲食店などを対象とした品質マネジメント規格です。
ISO 9001認証取得の手順
ISO 9001認証取得の大まかな手順は以下のようになっています。
- 登録審査(ファーストステージ)
- 登録審査(セカンドステージ)
- 登録証発行
1,登録審査(ファーストステージ)
登録審査は2段階となっており、まずはファーストステージとして文書審査を中心にQMSの構築状況の審査を受けます。
登録審査(ファーストステージ)までに、企業などの組織内でISO 9001認証取得に向けた体制構築やスケジュール確保、適用範囲の決定、各種文書(手順・規程など)の作成を行っておくことが必要です。
2.登録審査(セカンドステージ)
登録審査(ファーストステージ)を通過した1~6ヵ月後に、登録審査(セカンドステージ)を受けます。登録審査(セカンドステージ)では、QMSの実施状況に基づき、規格への適合性が審査されます。
登録審査(セカンドステージ)までに、QMSに対する内部監査やマネジメントレビューを終わらせておくことが必要です。
3.登録証発行
登録審査を通過した場合は、約1ヵ月後に登録証が発行されます。登録証は有効期間が3年間であるため、3年後にQMSの実施状況について更新審査を受けることになります。
ISO 9001認証を取得するメリット
ISO 9001認証を取得するメリットとしては、主に以下の3点が挙げられます。
- QMSの実践によって客観的な評価を得られる
- 第三者の視点も踏まえて組織内のQMSを改善できる
- 定期的に審査を受けることで組織内の継続的なコンプライアンス強化などが図れる
QMSの実践によって客観的な評価を得られる
ISO 9001認証を取得するメリットの1つは、QMSの実践によって客観的な評価を得られる点です。ISO 9001は世界170ヵ国以上・100万以上の組織が利用している国際的な規格であるため、認証を取得することで社会的に高い評価を受けられるでしょう。
組織に対する信頼向上にもつながり、国内企業・海外企業との取引の円滑化や企業価値の向上なども期待できます。
第三者の視点も踏まえて組織内のQMSを改善できる
ISO 9001認証取得により、組織内のQMSを改善する効果もあります。ISO 9001認証を受ける過程で、外部の機関から組織のQMSの実施状況に対して評価されることになります。
組織内だけでは気づけなかった点に気づくきっかけにもなり、QMSを改善していくことにつながるでしょう。
定期的に審査を受けることで組織内の継続的なコンプライアンス強化などが図れる
ISO 9001認証は3年ごとに更新審査を受ける必要があるため、定期的に審査を受けることで組織内の継続的なコンプライアンス強化が図れます。
ISO 9001認証の維持を目標にすることで、適度な緊張感を持ちながら日々の品質管理業務を遂行できるでしょう。
ISO 9001認証を取得する際の注意点
ISO 9001認証取得には前述したメリットがある一方、以下のような注意点も存在します。
- ISO 9001認証取得までにはある程度の期間が必要となる
- ISO 9001認証取得には費用もかかる
- 文書の作成と保管管理をする必要がある
ISO 9001認証取得までにはある程度の期間が必要となる
ISO 9001認証を取得するためには、登録証の発行までに最短でも3ヵ月程度の審査期間が必要です。加えて、審査を受けるまでには組織内の体制構築や人員教育、文書類の作成などが必要となるため、スケジュールや体制の確保が不可欠である点に注意しましょう。
ISO 9001認証取得には費用もかかる
ISO 9001認証を取得する際は、登録料や審査料などがかかります。詳細な費用は事業規模や拠点数、人員数などによって異なるため、認証取得を検討する際は事前に見積りを行ったうえで予算確保を行いましょう。
文書の作成と保管管理をする必要がある
ISO 9001認証取得のために作成された文書や記録は適切に保管し、必要に応じて改訂・管理を行う必要があります。また、認証取得後の更新の際は、記録の保管も重要です。
QMSにおける監査の方法
QMSにおける監査の方法には、主に以下の2種類があります。
- 内部監査
- 第三者監査
内部監査
内部監査は、自身の組織内でQMSの実施・運用状況に対して行います。ISO 9001の要求事項としても、定期的な内部監査が定められています。
内部監査の対象は、商品・サービス提供時の各種作業ではなく、組織内におけるQMSの実施・運用状況やISO 9001規格への適合状況などです。
内部監査を定期的に実施することで、QMS運用の形骸化を防止することに役立ちます。
内部監査を行う際は、前回の監査時に問題がなかった箇所も含めて全体的にチェックを行うことがポイントです。
第三者監査
第三者監査は、QMSの認証や更新にあたって外部機関が行います。ISO 9001認証においても、登録時や更新時に第三者による監査が必要です。
第三者による監査を行うことで、組織内の属人的なQMS運用の防止・改善につながります。第三者による監査を受ける際は、組織内のQMSの実施・運用状況を実態通りに正しく報告・共有することが欠かせません。
QMSの構築・導入方法
ここでは、QMSの構築・導入方法について、以下の流れに沿って解説していきます。
- QMSの構築・導入を行うことを組織内に浸透させる
- 現行の業務内容や業務プロセスを洗い出し、文書化する
- 文書化した業務内容や業務プロセスを分類する
- 文書に基づきQMSの継続的な運用・改善を行う
1.QMSの構築・導入を行うことを組織内に浸透させる
はじめに、QMSを組織内に構築・導入していくことを組織全体に説明・共有しましょう。
QMSは組織内のメンバー全員で行う取り組みであるため、方針や目標を全体に浸透させていくことが重要です。
組織内に浸透させるにあたっては、経営層が積極的に関与することがポイントとなります。
経営層の意思決定をベースにすることで、組織内の推進体制の構築やスケジュール設定、適用範囲の決定などをスムーズに進めることができるでしょう。
2.現行の業務内容や業務プロセスを洗い出し、文書化する
QMSに対する組織内の方針や体制、スケジュールなどが固まった後は、現行の業務内容や業務プロセスを洗い出して文書化していきます。
組織内の業務プロセスを標準化できたとしても、目に見える形で整理しなければ担当者によって対応品質のバラつきが生じてしまいます。
そのため、適用範囲における業務内容や業務プロセスを明文化し、誰が見ても同じ認識を持てるようにしておくことが重要です。
3.文書化した業務内容や業務プロセスを分類する
業務内容や業務プロセスを文書化した後は、各文書を業務内容ごとに分類していきます。
加えて、マネジメントシステム規格を参考に上位文書を作成し、組織内におけるQMS運用を体系的に整理していくことが大事なポイントとなります。
上位文書で大きな方針を示しつつ、下位文書で具体的な業務プロセスなどを整理することで、体系的かつ具体的な情報整理が可能です。
4.文書に基づきQMSの継続的な運用・改善を行う
作成・体系化した文書に基づき、組織内で実際にQMSの運用を行います。
QMSの運用を実施する際は、運用していくなかで不十分な点を見つけ出し、文書化した内容を適宜改善していくことが重要です。
たとえば、製造している商品の不良品率が下がらない場合は、文書内で定義されている業務プロセスや検品方法などに問題点がないか、改めて確認することが求められます。
QMSを継続的に改善していくためのポイント
QMSを継続的に改善していくためには、PDCAサイクルに沿って運用していくことが大事なポイントです。
PDCAサイクルとは以下の4つの要素からなる取り組みであり、PDCAサイクルを繰り返すことでQMSの継続的な改善が期待できます。
- 「Plan」(計画)
- 「Do」(実行)
- 「Check」(評価)
- 「Action」(改善)
上記の各要素について、以下でそれぞれ解説します。
Plan:QMSにおいて達成したい目標の設定
はじめに「Plan」(計画)として、QMSにおいて達成したい目標を設定します。
たとえば、商品の不良品率を0.5%から0.2%に減少させるなど、測定可能な目標を設定することが大切です。
Do:QMSの推進
目標設定の後は、実際にQMSの活動を推進していきます。
文書化した業務内容や業務プロセスなどのマニュアルにしたがい、日々の製造業務などを実施していきましょう。
Check:品質状況の分析やQMSの評価
製造した商品の品質分析などを行い、QMSの評価を実施していきます。
具体的には、「Plan」(計画)にて設定した目標(不良品率:0.5%→0.2%など)を達成できているかを確認し、QMSの実施状況の評価を行います。
Action:分析・評価に基づく改善案の検討・実行、目標の見直し
「Check」(評価)の結果、目標に到達していない場合は業務内容や業務プロセスの問題点を洗い出し、改善策の検討を行います。
目標を達成した場合においても、品質マネジメントをより良くするための改善案などを関係者間で検討・提案していくことが重要です。
また、当初の目標設定が現実的でない数値目標となっていた場合は、次回のPDCAサイクルに向けて目標の見直しも行います。
QMSに役立つ手法・ツール
ここでは、QMSに役立つ手法・ツールとして、QC(Quality Control)7つ道具とダッシュボードについて解説していきます。
グラフ
グラフを活用することで数値の変化を視覚的に把握できるようになり、数値の羅列だけでは見つけにくい傾向を掴みやすくなります。
グラフには円グラフや棒グラフ、折れ線グラフなどの種類があり、時系列変化や割合など、確認したい用途によって使い分けることが重要です。
パレート図
パレート図は、縦棒チャートと折れ線チャートを組み合わせた図表であり、事象の主要因を分析する際に役立ちます。
たとえば、項目別の商品の不具合件数などを多い順に並べて表示することで、注目すべき重要な要因を一目で判別することが可能です。
ヒストグラム
ヒストグラムは、データの分布状況を可視化したものであり、度数分布図とも呼ばれます。
データのバラつき状況を視覚的に把握することで、製造工程における問題点の判断などに役立ちます。
散布図
散布図は、2種類のデータ間の関係性を分析する際に活用するチャートです。
たとえば、湿度と不具合件数をチャート内にプロットすることで、湿度(原因)が商品の不具合(結果)にどの程度関係しているのかを判断できます。
特性要因図
特性要因図は、ある課題に対する要因を深堀りしていく際に活用するチャートです。
課題に対して考えられる要因を段階的に深堀りしていくことで、根本的な要因を判断することができます。
管理図
管理図は、時系列データに対して平均値を表す中心線・上限線・下限線を引いたチャートであり、データの異常値を検出する際に役立ちます。
たとえば、連続して上限線を超えるデータが発生している場合は、製造工程などで何かしらの異常が発生していると判断できます。
チェックシート
チェックシートは、確認が必要な事項を網羅的に記載したシートであり、主に点検業務などで用いられます。
チェックシートにしたがって確認結果などのデータを記入していくことで、確認漏れなどを防止することに役立ちます。
ダッシュボード
ダッシュボードは、さまざまな情報をまとめて表示するためのツールです。
ダッシュボードを活用すれば前述した各種チャートなどをツール上にまとめて表示でき、QMSの実施状況を視覚的に把握することができます。
QMSに役立つ手法・ツールについては、以下の関連記事もあわせてご確認ください。
QMSならBIダッシュボード「MotionBoard」がおすすめ
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「生産・設備・品質管理にMES(製造実行システム)を導入したいけれど、コストや開発期間がネックでなかなか踏み出せない」という企業でも、MESODであれば手軽に導入できるでしょう。
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まとめ
QMS(品質マネジメントシステム)とは、企業などの組織が商品やサービスの品質を継続的に維持・向上させていくための仕組みであり、商品・サービスの品質向上や顧客満足度の向上を主な目的としています。
QMSに関する代表的な国際規格としてISO 9001が存在し、ISO 9001認証を取得することで社会的な信頼の獲得や組織内のQMS改善効果が期待できます。QMSを構築・導入する際は、組織内で方針策定や体制構築を行ったうえで、現行の業務内容や業務プロセスを文書化することが重要です。そして文書に基づきQMSを実践し、PDCAサイクルに沿って継続的に改善していくことが大事なポイントとなります。
低コストかつスピーディーにQMSの仕組みを構築・導入し、製造現場の品質管理を効率化したい企業は、ぜひ「MotionBoard」の活用をご検討ください。