金融ソリューション

キャッシュレス社会の現実には、
消費者の顧客満足度を上げる
ビッグデータ利活用が不可欠だ

2018年8月

国家的ビジョンとして官民挙げて推進中の「キャッシュレス社会」。
キャッシュレス先進国・中国を視野に入れながら実現に向けての全体像が見えてきた。ウイングアーク1stにおけるキャッシュレス・ソリューションのキーマンで、情報収集と動向把握に取り組んできた吉山潔(営業・ソリューション本部 金融・公共ストラテジックビジネスユニット副ユニット長 ※2018年8月当時)が、キャッシュレス社会実現への現状と課題について論点整理します。

官民挙げて取り組んでいる国家的プロジェクト

――まず、日本におけるキャッシュレス社会の現状を教えてください。

吉山

「キャッシュレス社会」への取り組みは、金融業界のみならず国も注目し、官民挙げて取り組んでいる国家的プロジェクトということができます。デジタル・テクノロジーによるキャッシュレス(=現金がなくなる)が実現すれば、その購買行動の記録はビッグデータになります。消費者の動向や販売履歴などがAI分析などに活用できるようになるわけです。

現在進めているキャッシュレス社会の最大の特徴は「消費者(購入者)」「メーカー」(製造者)」「小売・流通業者(販売者)」という幅広い参加者のすべてに、相応のメリットがあることです。

「消費者」は現金(小銭)持ち歩かなくも買い物ができるようになり、自分の購入データを活用して家計管理ができるようになります。「メーカー」は販売履歴のビッグデータを利活用することで、より効率的な生産・供給が可能になります。

「小売・流通業者」は最もメリットが多いかもしれません。たとえば、日本全体ではいまキャッシュ管理のコストに約8兆円かかっています。そのうち約2兆円が金融業界のATMの運用コストで、残り6兆円が小売・流通業界におけるキャッシュの管理コスト(人件費や現金輸送費など)になっています。

QRコード+完全ペーパーレス+API標準化

吉山

全国銀行協会(全銀協)によれば、キャッシュレス化によってATM管理コストのうち、少なくとも1兆円は削減できるとしています。現在でも、MUFG(三菱UFJフィナンシャル・グループ)は5年後までにATMを2割削減する方向で検討中。あおぞら銀行は自前のATMをゆうちょ銀行のものに置き換えています。

小売業界では、実店舗無人化・省力化や現金管理コストの削減、販売拡大のためのビッグデータ利活用が期待できます。

国の取り組みも積極的です。首相官邸は「未来投資戦略2017」のなかで、2015年現在で18.4%のキャッシュレス決裁比率を2027年6月までに40%まで拡大することをめざすと明記しました。経済産業省も2018年4月に一般財団法人キャッシュレス推進協議会を設立して「キャッシュレス・ビジョン」を制定。こちらは「大阪・関西万博(2025年予定)までにキャッシュレス決済比率40%をめざす」と、2年前倒しの計画です。

国の取り組みはキャッシュレス推進協議会が主体になり、①QRコード決済の標準化②キャッシュレスにともなうペーパーレスの整備③APIガイドラインの整備(銀行間データの公開準備)の3点を柱に進めていく予定です。

決裁手数料無料と利息付与が魅力のアリペイ

――キャッシュレスに関しては中国が先行していますね。

吉山

はい。日本のキャッシュレス決裁比率18.4%に対して、中国は60%。浸透度・サービス充実度から見ても、世界で中国が先行していると思います。日本も中国で主流のQRコードによるキャッシュレス決済を目標にしています。具体的には、アリババ・グループが展開して、2017年末時点のユーザー5億2000万人を誇る「支付宝(アリペイ)」。これが事実上の標準モデルになると見られています。

アリペイがここまで大きくなった理由は大きく2つあります。ひとつは、店舗側の決済手数料が無料なこと。日本の現状でキャッシュレスの主役はクレジットカードですが(一部は交通系プリペイドカード)、クレジットカード決裁では店舗が平均3.24%の決済手数料を払っています。これが無料。とくに小規模小売業は一般に薄利多売モデルなので、3%を超える手数料負担が収益に与えるインパクトは思いのほか大きいのです。

もうひとつは、アリペイ決裁用のマネー・マーケット・ファンド「余額宝(ユエバオ)」。ユーザーはユエバオにお金をチャージするだけで年率約4.1%の利息が付くのです。超低金利の日本では考えられない利息水準ですね。ユーザー数が増えすぎて、現在は利息を引き下げ傾向で、1人あたりのチャージ上限金額も約160万円まで減ってきましたが。

グループ全体の手厚いサービスで顧客満足度を上げる

――決裁コストの低減と消費者への優待(利息付与)で、そこまで大きくなりますか!

吉山

それだけでは無理だったでしょう。それらに加えてアリペイでは、豊富なグループ企業による充実したサービスとビッグデータ活用によるきめ細かいサービス提供が大きい。つまり、ユーザーの顧客満足度が高いのです。

顧客満足度を高くできたのは、銀行やクレジットカードなどのトップシェア1社が主導したのではなく、アリババというコングロマリット(多岐にわたる複合企業体)がグループ全体で手厚いサービスを提供しているからです。グループで消費者それぞれの購買行動をビッグデータとして活用。個人に向けてよりフィットした情報を送ることで、結果、顧客満足度が上がるという構図です。

実際のところ顧客満足度調査をすると、どの国でも金融サービス業は総じて平均点以下。しかし、アリペイは違います。たとえば生保会社は、高齢者ユーザーの健康状態の変化を察知するとすぐさま「大丈夫ですか?」とメール送信。欧州ブランドのチョコレートを買うと旅行会社が欧州旅行の情報を提供する――などなど。単なる商品・サービスの売り込みではなく、生活サポートやライフスタイル拡充の情報を提供する姿勢が中国消費者に受け入れられた格好です。

中国のキャッシュレス社会は、ビッグデータを活用して顧客満足度を上げるところまで進んでいるということです。財布が小さく軽くなったり、メーカー・コンビニだけが潤うような小さい話ではありません。参加するすべての個人・組織がメリットを得て、満足度が上がるキャッシュレス社会です。さまざまな問題を抱えてはいますが、中国はそれを実現しつつあります。日本が目標とすべきモデルケースであることは間違いありません。

ペーパーレスかつデジタルで完結する新インフラが必要

――アリペイが広がった背景はよくわかりました。一方、我が国のキャッシュレス社会実現への課題はどこにあるのでしょうか。

吉山

さざまな理由が考えられますが、決裁インフラの問題が大きいですね。日本のキャッシュレス決裁比率が相対的に低いのはなぜでしょう。1980年代から90年台にかけて確立された、銀行+クレジットカードベースの決裁インフラを使っているからです。

【日本におけるクレジットカード決裁のインフラ構成図】

図を見ていただくとわかりますが、参加者(プレイヤー)がとても多い。構築された時代背景もあり、日銀の全銀システムやNTTデータのCAFIS(Credit And Finance Information Switching system=キャフィス)など、安全性を非常に重視したリッチな体系ということができます。

ここで注目したいのがCAFIS。各プレイヤーは手数料を薄く取る仕組みですが、CAFISは売買金額に関係なく1トランザクションあたり4円を徴収しています。1回の売買で往復のトランザクションなので8円。カード決裁金額に下限を設けている小売・飲食店があるのは、この仕組みよるところが大きい。

システム全体として高コスト体系なのですね。経産省もキャッシュレス推進協議会も、このインフラのままでは本格的なキャッシュレス社会は難しいという認識をもっています。

また、クレジットカード決裁では控え(レシートなどの購買記録)を紙で提供しています。経産省は控えとバックアップを含めて、紙が発生するキャッシュレスシステムは機能しないと見ています。完全ペーパーレスかつデジタルで店舗・個人の決裁が完結する新しいキャッシュレス・インフラが求められているわけです。

全プレイヤーのデータ利活用でメリット共有が可能

――なるほど。そもそもデジタル・テクノロジーによる販売・購入フローとはどんなものなのでしょうか。

吉山

経産省が想定しているデジタル・テクノロジーによる販売・購入フローとは、「商品識別する」「IDを特定する」「対価を受け取る」「購買証明を出す」のそれぞれが、IDと標準フォーマットで連携されており、一連の流れがスムーズかつ簡単であることが前提です。

とくに大事になるのが最後の「購買証明を出す」、つまりレシートの発行です。経産省は「電子レシート化構想」を進めており、①消費者が電子レシートアプリをスマホにダウンロード②買い物の際に個人を認証③電子レシートをスマホに発行――というフローを想定。2018年2月には、東京都町田市で小売・システム・スマホアプリなどを網羅した実証実験を実施しました。

実験の結果で興味深かったのは小売業界の現状でした。自社(自店)の販売状況は当然のことながらわかりますが、同じ小売業の他業態の販売動向はほとんど知らないということ。もちろん、業態や規模、場所などで売れ筋商品は変わってくるでしょうが、まったく同じ日時でスーパーとコンビニでまったく違う商品が売れていたり。

消費者の購買行動の何がわかるのか。たとえばクレジットカード会社は「いつ」「どこで」「いくら」買ったかはわかりますが、「(具体的な)何を」買ったのかはわかりませんよね。決裁口座の銀行はもっとわからないでしょう。小売業は当然「何を」「いくら」はわかりますが、そこでの買い物以外の情報はわかりません。

得られる情報に、プレイヤーごとの限界があるわけです。プレイヤーすべてがデータを提供し利活用できる社会になれば、プレイヤーみんなでメリットを享受できそうだ――2週間の実証実験でこれがわかったことの意味は大きいと思いますよ。

データ利活用の鍵は小売業のモチベーション向上

――こうして見ると、デジタル化によるキャッシュレス社会の実現には小売業の負担が大きいというか、直接的なメリット拡大が求められそうですね。

吉山

そうなのです。メーカーは①店舗での販売状況が詳細にわかる②販促報奨金や営業努力の費用対効果がわかる――などのメリットを得られます。銀行(金融機関)はATMの管理運用コストを削減できます。では小売業界は...あまりありません。モチベーション要素が少ないわけです。

その理由は大きく3つあります。第1に新しい端末導入などのコスト負担が発生する。第2に、同業他社の販売データはほしいが、自社データを知られたくない。第3に、販売している商品のメーカーに知られたくない情報もある、です。

この点は経産省も理解しているようで、「そもそもメインプレイヤーとなる小売業者のモチベーションがない」と指摘しています。構想としては、カード決裁で現在負担している手数料3.24%を、デジタルキャッシュレスではゼロにしたり、逆に0.1%を得る仕組みを構築するなどがあるようですが現実的かどうか。

データ提供側の中心は小売業にならざるを得ないので、何か新しいメリットを付与しないと、導入のモチベーションは上がらないでしょうね。

商品マスターの整備と安価な決裁端末も求められる

――小売業のモチベーション向上のほかにデータ利活用の課題はありますか?

吉山

2つあります。ひとつは商品マスターの整備です。現状のJANコードは地方特産品やサービスには付いていません。データ利活用では、ありとあらゆる商品・サービスのデータを可視化することが必要です。JANコードに替わる新しいIDが必要でしょう。

もうひとつが店舗向けの安価な決済端末の提供です。正直なところ、既存ベンダーの新しいQRコード端末は高価です。経産省は、デジタルキャッシュレス社会では日本国中で使えるように個人商店などでの利活用を重視しています。そうなると、バックアップ用のプリンタなど論外で、店舗はタブレット端末で消費者はスマホという構成が基本になります。

汎用タブレットとソフトウエアの店舗のインフラで、QRコード認識→決済→電子レシート発行というフローを実現する必要があります。たとえば、りそな銀行では店舗に端末を無償配布して売買情報を入手する「銀商連動」に取り組んでいます。ひとつの端末とソフトウエアでキャッシュレス化が安価に実現するプロトタイプをつくろうという試みです。

この点については経産省も考えがあるようで、「現状並みセキュリティを担保する優れたソフトウエアシステムの開発について、Fintechベンチャーの活躍を切に望む」と述べています。

キャッシュレス社会は消費者の顧客満足度を上げ、参加するすべてのプレイヤーがメリットを享受できる社会です。この点を大義として進めなければ成功しないでしょう。決して、大手メーカー・ベンダーだけが利益を得るシステムではない――。キャッシュレス化の動向をウオッチしている私には、国(経産省)の本気度や矜持のようなものを強く感じています。

日本企業もプレイヤーごとに社会実験的に進めている

――そのような現状のなかで、日本での企業の具体的な取り組みは?

吉山

ご存知のように「QRコード決裁サービス」をスタートさせている企業は出てきています。プレイヤーごとに社会実験的に進めている状況といえます。「LINE PAY」は3年間、店舗決裁手数料が無料。飲食店利用などで便利なワリカンが可能な個人送金サービスなどで先行しています。ソフトバンクとヤフーが展開する「PayPay」は同じく3年間の店舗決裁手数料無料化でLINE PAYを追撃中。アマゾンジャパンも日本の数十店舗で手数料ゼロでのスマホ決裁を可能にしています。

銀行も「脱CAFIS」に向けたブロックチェーン(分散台帳技術)を活用したインフラ構築の動きが活発化しています。MUFGは、米アカマイ・テクノロジーズと共同で新型ブロックチェーンを活用した高速で安価な決済システムを開発しています。SMBC(三井住友フィナンシャルグループ)は、ネット決済大手のGMOペイメントゲートウェイと次世代決済プラットフォームの構築について協議中です。

どんな企業がどのようなサービスを形にするのか明確にはわかりませんが、この流れは今後、急速に具体化していくでしょう。

――そこで日本ならではの難しさはあるのでしょうか。

吉山

ビジネスのデジタル化という意味では、特異的な難しさがありました。現在は変わりつつあると認識しています。かつて、ネット販売に進出することがデジタル化の典型だった時代がありました。現在は、あらゆるビジネスシーンで極限までITを駆使する時代です。

日本でデジタル化が遅い理由としては、①英語ベースのデジタル世界を日本語にローカライズする時間と手間②保守化マインドの壁(業界中位がイノベーションを起こし、その結果を見て上位が追従する)などが挙げられました。

現在は違います。業界トップが先駆けて変革に取り組み、どんどん先に進んで行きます。AI人材の中途採用や専門組織の立ち上げなどがその好例です。おそらくトップと中位では、見えている市場・相手が違うのでしょう。銀行の競争相手がアリババやアマゾン、ソフトバンクになっているのですから。

データ利活用に関して当社らしい立ち位置で付加価値を提供

――キャッシュレス社会の実現に向けて、ウイングアーク1stはどのような付加価値を提供できるのですか。

吉山

キャッシュレス社会は、国だけ銀行だけ小売だけで取り組んも実現しないことは明白です。当社のようなIT会社やSierの金融担当者の発想でできるソリューションでもありません。

当社の強みは500人の社員が組織横断的に情報を共有、ソリューション・サービスを自立的に創造できることです。キャッシュレス社会はまさに最適なテーマのひとつ。なかでもデータ利活用に関して当社は、当社らしい立ち位置で従来のIT会社以上に、企業・個人の両方の利便性を高める付加価値を提供できます。

これまで述べてきたように、キャッシュレス社会はすべての消費者の顧客満足度を向上させることが前提です。消費者や幅広い業種の企業が「身を置くことで幸せになる社会」。そんなキャッシュレス社会の実現に貢献していきたいと考えています。

【キャッシュレス社会実現へのテーマ・課題・取り組み】

データ活用とデジタル化で次世代金融機関への変革を促進

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