2年弱という短期間でデータ活用の文化を定着 DXによって新しい価値を生み出し 企業文化、働き方を変革する秘訣とは?

Company Profile

社名:ヤンマー建機株式会社
事業内容:ヤンマーグループの中で小型建設機械(油圧ショベル・ローダーなど)ならびに汎用製品(発電機・ 投光機など)の開発・生産・サービス・販売
資本金:9,000万円(ヤンマーホールディングス㈱100%出資)
設立:2004年(平成16年)7月21日
URL:https://www.yanmar.com/jp/about/company/construction/
業種:製造
利用製品:MotionBoard、Dr.Sum
用途:品質保証部、生産部の効率化と品質向上

お話を伺った方

ヤンマー建機株式会社
代表取締役 社長
奥山 博史 氏

ヤンマー建機株式会社
品質保証部 部長
大橋 哲博 氏

ヤンマー建機株式会社
戦略部 DX推進グループ
兼 品質保証部 品質企画グループ 課長
田中 重信 氏

  • DX
  • キーパーソン
  • データ統合
  • 企業文化改革
  • 働き方改革
  • 品質保証
  • 短期社内浸透
  • 製造業

小型建設機械を中心に日本と世界で事業を展開するヤンマー建機株式会社は、ウイングアーク1stのBIダッシュボード「MotionBoard」、集計・分析プラットフォーム「Dr.Sum」を導入し、全社的なデータ統合・活用を実現。着々とDX戦略を推進しています。そうした取り組みの核となった品質保証部 部長の大橋哲博氏、DX推進グループの田中重信氏、活動を後押しした代表取締役社長の奥山博史氏にお話をうかがいました。

「すべてはお客様の満足のために」
小型建設機械を中心に事業を展開

▲(左から)大橋氏、奥山氏、田中氏

ヤンマー建機株式会社は、ヤンマーグループの中で油圧ショベル・ローダーなどの小型建設機械、発電機・投光機など汎用製品の開発・生産・販売・アフターサービスを担当。日本全国に34の拠点があり、世界各地に拠点・工場を展開しています。

ヤンマーの歴史は創業者が世界初の小型ディーゼルエンジンを開発したことから始まります。そのエンジンを利用して漁業や農業、建設業などに携わる顧客の作業負担を減らし、貢献したい。「顧客価値創造企業」を目指して成長を続けてきました。

そんな実直なものづくり企業であるヤンマーグループのヤンマー建機は、2021年以降、ウイングアーク1stのBIダッシュボード「MotionBoard」、集計・分析プラットフォーム「Dr.Sum」を軸に全社的なデータ統合と活用を推進。着々とDX戦略を推進しています。

2022年1月には社長直属の戦略部 DX推進グループを設置、2022年6月には奥山社長がヤンマーホールディングス株式会社のCDO(最高デジタル責任者)に就任する予定です。ヤンマー建機はなぜ2年弱という短期間でデータ活用を急速に進展させることができたのでしょうか?

データの統合・活用に課題
DXで企業文化や組織を変革

発端は2018年に大橋哲博氏が品質保証部 部長に就任したことでした。品質保証部は、お客様の要望やトラブルなどの情報を受け止め、それにしっかりと対応するとともに、その情報を開発や製造にフィードバックして再発防止を図ったり、新製品の品質を向上させたりする役割を担っています。

大橋氏はそれまで開発や資材、製造などの部門を経験してきたため、効果的な品質保証の実現には、他部門が持つデータの活用が不可欠だと感じていました。

「たとえばある製品で故障が生じたとき、その製品がどのように開発され、いつ生産され、部品を供給したサプライヤーはどこだったのかなどがわからないと、原因究明や再発防止が行なえません。しかし開発や製造など社内の各部門が別々のシステムを使っていたため、データを統合して活用することができない。宝の山のようなデータが眠っていることはわかっていましたが、活用するすべがない。手詰まり感がありました」

と大橋氏は振り返ります。

2019年3月、奥山氏がヤンマー建機の社長に就任。奥山氏はDXとデータ活用についてどのように考えているのでしょうか?

「ヤンマー建機はものづくりに非常に力を注いできたのですが、これからの時代はお客様の課題をしっかりと把握し、的確なソリューションを提供することが求められます。我々はしっかりしたものづくりをしてきたからこそ「ウォーターフォール型」の思考様式と行動パターンが身に沁みついている。製品を開発する場合はそれでよいのかもしれませんが、お客様も気づいていないようなニーズを理解した上で、それに応えるソリューションやサービスを出そうとするときは、何年も考え抜いて開発するのではなく、まずは素早く具体物を出してみて、お客様の反応を見ながら方向性を決めていく「アジャイル型」のアプローチが求められます。DXを通じてそうした意識変革を起こし、企業としての文化や組織、働き方を変えていきたい。デジタルはそうしたトランスフォーメーションのためのツールであり、情報を素早く把握して意思決定に活かすデータ活用はそのコアとなります」

と奥山氏は語ります。

データ活用における課題とは?
いかに判断のスピードを上げるか

2020年4月、田中 重信氏がヤンマー建機 品質保証部の一員となりました。当時は他社製のBIツールで品質情報を分析していましたが、データ連携に多大な時間や費用がかかるという課題を大橋氏は抱えていました。それらの課題を解決するために、大橋氏は田中氏と相談しながらMotionBoardとDr.Sumを導入し、全社のデータ統合と活用を推進していきました。大橋氏は、

「材料だけは揃えていましたが、私では調理することができなかった。田中という腕のいい調理人と道具が揃ったことで、ようやくおいしい料理をつくることができるようになりました」

と当時の状況を説明します。田中氏が特に課題と感じていたのは、Excelによる集計と資料作成でした。

「各部門のシステムからダウンロードしたデータをExcelに取り込み、それを加工して表やグラフに仕上げる。非常に時間と労力がかかっていました。データをもとに判断を行うべき人がExcel作業に時間を取られて疲弊してしまっている。判断するスピードが鈍り、リソースが無駄に使われていました」

と田中氏は振り返ります。奥山氏も資料が作成されるスピードや報告の頻度について不満を感じていました。

「今は状況の変化が激しいので、タイムリーな経営判断・意思決定をするためにも現状把握の頻度を上げる必要がある。しかし集計作業に時間がかかりすぎるため、報告が半期に一度になるケースもありました。本当は毎週、工場なら毎秒にでもデータがほしいところです」

と奥山氏は当時の問題点を指摘しました。さらに大橋氏は

「集計作業は人間のやるべき仕事ではない、集計結果を見て判断をすることが人間の仕事」

と言い切ります。

MotionBoard、Dr.Sum導入で
データ統合・活用が一気に進む

同社は2021年1月にMotionBoard Cloudを導入しました。

「ともかくすべてが速い。いろんなシステムにすぐ繋がり、統合したり可視化したりするスピードが素晴らしかった。Excelでつくったデータにも繋がるので、過去のデータを活用することもできます」(田中氏)

集計と可視化のスピードが格段に向上したため、今では全ての社員が自分に必要な鮮度の高いデータを見ることができ、意思決定に活用できるように。奥山氏はそのメリットについて

「見ようと思えば結構細かいデータまで見ることができるため、経営判断に非常に役立っています」

と語ります。

同社は2021年4月にDr.Sumを導入。社内の様々な既存システムにあるデータをDr.Sum Connectを活用してDr.Sumに取り込み集計。全社的なデータ統合が実現しました。そうして統合されたデータを各自がMotionBoardで可視化し、データを共有しながら活用するという形が実現しています。

同社内には全世界約8万台のミニショベルなどからGPSを活用して発信される位置情報や作動情報が、2013年から約2億件以上溜まっていました。その情報をDr.Sumに格納して分析。故障の事前予知に活かすなどDWH(データウエアハウス)としての活用も進めています。

2年弱という短期間でデータ活用とDXを
急速に進展できた秘訣とは?

2年弱という短期間で、データ活用やDXを急速に進展させられた要因は何だったのでしょうか?

田中氏は次のように説明します。

「既存システムをそれぞれ連携させるのはとても大変ですので、各システムからデータだけをDr.Sumに取り込みました。スピードや効率を考えて、そうしたシステム構築を地元のベンダーさんに依頼したことも大きかったですね。非常に柔軟に的確に対応していただきました。あとウイングアーク1stさんの営業、SE、サポート担当者の方々の素早くきめ細かい対応のおかげで、安心感を持ちながらスピーディーに構築や社内への浸透を進めることができました」

田中氏は、情報システム部に対して目的と行う作業を明確にし、各システムへの書き込みは決して行わずデータをもらうだけということ、通常の作業の邪魔をしないことをしっかりと説明。構築ベンダーや情報システム部に任せ切るのではなく、必ずその間に入って調整し、スムーズに作業が進むように心掛けました。

同社は2021年6月、データ活用のワーキンググループを品質保証部と生産部の精鋭メンバー10名ほどで立ち上げました。Excel作業などで困りごとを抱えているメンバーがDr.SumやMotionBoardを活用することで課題を解決。そこで得られた成果を「お土産」として社内の各部門に持ち帰ってもらうことで、マネージャークラスへの啓蒙と多部門への浸透を図っていきました。また、ワーキンググループメンバーの一部を部署の垣根を超えた兼任にするなど、社内で動きやすいように配慮しました。

▲戦略部 DX推進グループ 沼田さん(左から2番目)と品質保証部 品質技術グループ 副枝さん(左から3番目)と一緒に

2022年からは参加メンバーも開発、商品企画、営業などの部門に広がり、全社を巻き込んで活動が拡大。ウイングアーク1stのユーザーコミュニティ"nest"イベントやもくもく会への参加を促し、WingArc Membership(WingArc1stが提供するユーザー専用ポータル)の情報を活用することでメンバーのレベルアップを図っています。

「人に頼むより自分たちでMotionBoardを使ってボードを作成する方が早い、誰でもデータ活用ができるという雰囲気になるように努めています。現在ではボードの95%は自分たちで作成するようになりました。ボードは自分たちでつくりますが、Dr.Sumのビュー作成や社内システムからデータを取得する部分などリソースや技術的な知識を要する作業は外部ベンダーに外注し、効率化を図っています。一般メンバー、コアメンバー、情報システム部、外部ベンダーと役割分担を徹底しました」(田中氏)

仕事のやり方を変えたければ
相手にしっかりと寄り添うこと

だが、これまでの仕事のやり方に固執する人は多いかもしれません。田中氏はそんな人たちをどのように変えていったのでしょうか?

「Excelは便利なツールですが、様々な問題が生じることもあります。そんな困っていそうな人のところに行って、一緒にやりましょうと寄り添いながらMotionBoardでボードをつくってあげる。最初はExcelの元データを使ってつくるんですが、『そのデータはどこから取ってきたんですか?』と聞いて、次はDr.Sumに繋いであげる。すると便利さに気がついてMotionBoardでボードをつくりはじめます。一気に進めるのではなく、段階を踏んで自分から使いたくなるよう誘導するのがポイントです。よく『いや短時間で済む作業なのでExcelでいいんだ』と言う方がいらっしゃるのですが、『その作業を行う時間と回数をかけ算したらトータルでどれくらい時間がかかっていますか?』と訊くと納得してもらえます」

と田中氏はコツを伝授してくれました。

データは経験を補うことができる
さらなる業務効率化、働き方改革を推進

ヤンマー建機はデジタルツール活用による業務効率化、働き方改革にも積極的に取り組んでいます。2022年にはウイングアーク1stの文書データ活用ソリューション「SPA※」を導入。Dr.Sumの様々なデータとSPAのOCR処理された文書データを紐づけることで、様々な部門の作業に活用するとともに、将来の完全ペーパーレス化を見据えています。また、RPAにも積極的に取り組み、Dr.SumへのWebデータやExcelデータの取り組みを自動化するなど、業務負担の軽減を目指しています。

「リモートワークなど働き方が多様化する中、社内だけでなくどこでも作業ができる環境を実現したい。現在MotionBoardはオンプレミス版を中心に活用していますが、将来はクラウド版も拡充し、より効率的で柔軟な働き方に対応したいと考えています」(大橋氏)

また、大橋氏は

「たとえば品質保証部は様々な業務経験がなければ難しい仕事と言われてきました。しかし今はデータを活用することで若い人がベテランと対等に仕事をすることができる。データは経験を補うことができるんです。だからこそ若くポテンシャル溢れる人を巻き込み、データを活用できる人材を育成することが大切です」

と語りました。

戦略部 DX推進グループとしてDXの旗振り役をつとめる田中氏は、データを活用できる人材を増やそうとDr.SumやMotionBoardのワーキンググループ、勉強会の実施に力を注いでいます。特にMotionBoardでボードを作成する勉強会は毎週開催したいと考えているそうです

また、田中氏のもとにはヤンマーグループ各社からヤンマー建機の取り組みについてのヒアリング依頼が相次いでおり、今後グループ全体におけるデータ活用を加速させる役割も担っていきます。

アジャイル型の考え方、働き方を
グローバルに、グループ全体に広げたい

ヤンマー建機は今後、どのようにDXを進めていくのでしょうか?

奥山氏は次のように答えました。

「大橋という強い課題意識を持った管理職と、それを実際に形にすることができる田中が協力して始まった取り組みでしたが、データ活用を中心としたDXが会社の一部でうまく回り出しています。これを全社にさらに広げるとともに、海外の拠点・工場にも広げていきます。また、私はヤンマーホールディングスのCDO(最高デジタル責任者)に就任することが内定してますが、基本としてはヤンマー建機と同じく、お客様へのデジタルを通じた新しい付加価値の提供を目指していきます。そのためにアジャイル型の新しい考え方や動き方をグループ全体に広げたい。グループ各社で進んでいるDXへの取り組みもありますので、それを上手に連携させ推進していきたいですね」

問題意識とアイデアを持った人、そのアイデアを具現化できる人、そうした取り組みを理解し後押しする人。そうした役者とDr.Sum、MotionBoardというツールが最高のタイミングで出会い、データ活用をコアとしたDXがヤンマー建機という舞台で進行しています。そこで得られた成果や知見はグローバルに、そしてヤンマーグループ全体へと広がっていきます。

▼編集後記

データ活用促進のためには、「データを活用するアイデアを持っている人」「アイデアを実現する人」「理解のある経営者」、これらすべての役者がそろっていることがいかに重要な要素であるかをこの取材を通じて実感しました。データ活用の推進役と利用するユーザーの関係作りが社内におけるデータ活用浸透に課題となっている・・・そんな方に是非参考にして頂きたいストーリーです。

nest Membership Portalサイトでは、活用アイデアやノウハウを多数ご紹介しています。また、ユーザー同士の交流が活発に行われており生きた活用術の交換が日々行われています。本ストーリーで登場している田中さんとの交流もできますので是非ご活用ください。

カスタマーマーケティング担当 大野

(注)

※2022年6月より「SPA」および「SPA Cloud」は「invoiceAgent 文書管理」「invoiceAgent AI OCR」に名称を変更しました。