製造業をとりまく経営環境の変化をDXで乗り越える 短期間でデータドリブンを推進し、大幅な生産性向上と営業効率化を実現 自社で培った知見・成功事例を元にDX事業も展開

Company Profile

社名:セキ技研株式会社
事業内容:FA事業(製造ラインに組まれるFA生産設備の開発設計、組立調整)、EMS事業(自社設計の生産設備による、電子コネクタ組立工程の受託生産)、DX事業(自社DX成功事例を基礎とする、各現場に合った最適なソリューションの提供)
資本金:3,000万円
設立:1991年2月
URL:https://www.sekigiken.co.jp/
業種:製造
利用製品:MotionBoard Cloud
用途:製造現場の生産性向上、営業活動の効率化

お話を伺った方


セキ技研株式会社
取締役 副社長
関 将人氏

セキ技研株式会社
EMS事業部 事業部長
石原 健太郎氏

セキ技研株式会社
DX事業戦略室 室長 兼DX推進課 課長
山﨑 哲也氏

  • DX
  • データ活用促進
  • 企業文化改革
  • 営業DX
  • 業務改革
  • 短期社内浸透
  • 製造業

産業用自動機の設計・製造、電子部品の受託生産を行うセキ技研株式会社は、2020年よりDXへと舵を切り、デジタル化による業務効率・生産性向上、データ活用を全社的に推進。自社の取り組みで得られた知見や成功事例をソリューションとして提供するDX事業も立ち上げました。同社はなぜ約3年という短期間で、データドリブンやDXを全社に浸透させ、実際の成果につなげることができたのでしょうか? 同社の取り組みや工夫、得られた成果、未来への展望などをお聞きしました。

持続的成長の実現には、データドリブンの浸透が不可欠だった

セキ技研株式会社(以下セキ技研)は、自然豊かな新潟県南魚沼市で、オーダーメイドによる産業用自動機の設計・製造(FA事業)、同社製造の自動機による電子部品の組み立て量産(EMS事業)を行ってきました。

同社は、2020年より本格的な社内のデジタル化を推進し、2021年7月、DX推進室を立ち上げました。2022年には経済産業省「DX認定取得事業者」に認定され、デジタル活用による業務効率化、データに基づいた意思決定や企業活動を浸透させていきました。2023年5月にはDX事業戦略室を設置し、同社内で培った知見や成功事例をソリューションとして提供するDX事業を本格的に展開。主に地域の企業を対象に、DX推進支援、データ活用支援、事務作業効率化、RPA導入支援などを手がけています。

同社がデータ活用やDXに本格的に取り組むようになったきっかけを、取締役 副社長である関 将人氏は次のように語ります。

私の前職はホテル旅館の運営会社でしたが、そこでは全社員に顧客満足度データや経営情報を開示する企業経営が行われていました。私はそれが当たり前と思っていたので、2015年にセキ技研に入社したときは、仕事をするために必要な情報開示がかなり少ないことにギャップを感じました。

新人・ベテランを問わず社員の誰もが、具体的な数字やデータを根拠に改善を提案でき、それを実現できる職場環境がある。そんな会社を目指したいと強く思いました。

折しも自社や主要顧客を取り巻く経営環境も大きく変化していたので、これまでの勘・経験・度胸に基づく経営判断では業績改善は困難になるだろうと危惧していました。そこで、データやファクトベースで意思決定・行動するための①情報インフラの整備、②データドリブンを実践する人材の育成、③デジタル活用による業務効率化の3つが必要と考えました

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▲関氏

デジタル化により業務効率を改善。データ活用、DXへと舵を切る

2016年よりEMS事業部 事業部長を務め、2021年にはDX推進室長を兼任していた石原 健太郎氏は、事業部長としての業務のかたわら、出荷、生産管理、在庫管理などのシステムを自らの手で構築していました。

「さまざまなシステムからデータが集まってきましたが、それらは単に数字の羅列に過ぎません。2019年頃からそれらのデータを可視化し、それを元に考え、行動につなげたいと考えていました。改善活動を行うにしても、その効果はどうだったのかをきちんデータで検証しなければ、成果につなげることができないためです」

と石原氏は話します。

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▲石原 氏

データ可視化の前に石原氏が手がけたのは、生産現場に多数存在していた手書き帳票のデジタル化でした。EMS事業部では電子部品の受託生産を行っていますが、品質保証などのため手書きで記入する帳票が多数あり、現場で手書きされたデータをオペレータが再度入力するという無駄な作業が生じていました。石原氏はそれらの入力にiPadを用い、データをデータベースに集約して管理するデジタル化を実現。生産現場での業務効率を大幅に向上させました。

その頃、FA事業部の事業部長であった関氏も、顧客別や製品別などの営業データを活用し、その情報を基に現状を把握し、更に効率的な営業活動を推進することを目指していました。関氏は自身で業績データを集計し、グラフにして視覚化しました。そして、2019年から毎月の社内朝礼でそのデータを発表していましたが、初めは目立った反応は得られませんでした。

「以前の経営方針では社員に対するデータ開示に慎重で、経理部門もデータを分析するというより主に保管する役割が強かったです。また、データではなく個々人の経験や勘に基づいて判断する組織文化が存在していたため、これを一変させるには少々時間が必要でした」

と、関氏は当時の状況を振り返りました。

潮目が変わったのは経営の中枢メンバーが入れ替わり若返ったことでした。経営会議でもデータ活用やデジタル化の重要性が認識されるようになり、関氏、石原氏を中心に全社がDXに向けて舵を切っていきました。

「ただ、その頃はインフラもスキルも人材も不足していたので、ガバナンスやセキュリティの強化も含め、2022年までかけて少しずつ整備を進めました」 (関氏)

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▲写真左から 関 氏、石原 氏、山﨑 氏

MotionBoardによって可視化されたデータを行動変容につなげる

石原氏は2021年1月の経営会議で、MotionBoard導入を提案。データドリブン経営の重要性と、その実現のためにMotionBoardが必要であることを訴えました。会議の席で「そういう作業はExcelでもできるのでは?」という声も出ましたが、石原氏がデモを見せることでMotionBoardの特徴やメリットが理解され、導入が承認されました。

MotionBoardの活用は、EMS事業部の製造ラインの設備から収集した生産データを可視化することから始まりました。日別、月別の生産実績、検査不良品率、検査不良品数とともに、シフト別の生産実績や完成時間の違いも可視化されました。シフト別の完成時間の差を分析したところ、材料の投入など段取り作業で停止する時間が原因だと判明。データを元に改善を行うことで、生産性の向上につながりました。

「それまではExcelなどを使って、集計・グラフ化していましたが、必要なデータが半月後に届くなど時間差がありすぎました。問題に対処するにしても半月前のデータでは役に立たない。少なくても前日のデータがないと、実際の行動にはつながりません。MotionBoardによってほぼリアルタイムにデータを得られるようになったため、即座に手を打つことができるようになりました」(石原氏)

MotionBoardはFA事業部の営業データ可視化にも活用されています。同社のFA事業は顧客の要望に応じた設備をオーダーメイドで設計・製造しているため、営業活動は既存顧客の投資計画に依存した受け身の姿勢になりがちでした。データに基づいたより積極的で効率的な営業戦略が求められていました。

そこで関氏と石原氏が相談し、Excelで作成された見積り台帳データの可視化に取り組みました。納期別・年度別・顧客別などの受注金額、月別・年度別・顧客別・売上区分別の受注率など様々な切り口で可視化を行いました。

これまで漠然と受注が減り、暇になる時期があるという認識はありましたが、データ可視化により明らかに繁閑の波があることが判明し、特定業界には季節要因が存在していることが明らかになりました。分析の結果、閑散期は他業界へのアプローチを行うなど、繁閑に合わせて業務の標準化を行なえるようになりました。

また年々受注率が低下している原因を分析。失注原因を特定し対策を行うとともに、受注率をKPIとして設定しました。受注につながらない見積り工数を削減するなど、より戦略的で効率的な営業活動を実現しています。

関氏はMotionBoard導入によって、経営判断に活用できるデータを素早く入手できるようになったメリットを強調します。

「資料作成に無駄な時間をかけることなく、データを様々な切り口から分析したり、深掘りしたりできます。これまでそうだろうなと漠然と感じていたことが可視化することで確信に変わる。こうすればいいとか、このままではダメという気づきによって、実際の行動を変容させることができました」(関氏)。

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データドリブンを全社に浸透させるための仕組みづくりとは?

MotionBoard導入以来、データに基づき考え、行動する「データドリブン」は確実に浸透しつつあります。同社はどのようにして社員の意識を変え、データ活用を推進していったのでしょうか?

関氏は

「経営会議や営業会議の場で MotionBoardで作成したダッシュボードを必ず見てもらうにしています。人によっては目を伏せたくなる数字こそ、必ず見ざるを得ないような経営の仕組みづくりが必要です」

と話します。

また、石原氏は

「EMS事業部の製造現場では、常にモニターにMotionBoardの関連ある画面を表示し、誰でも見られるようにしています。改善のための会議でも、ダッシュボードを投影して議論を行います。ダッシュボードを作成する際には、できるだけ多くの人に刺さる内容を、わかりやすく伝えられるよう心がけています」

と語りました。

事務作業を自動化・省力化。各部門のデータをデータベースに集約

セキ技研がDX推進のため積極的に人材採用を進める中、2021年7月、山﨑 哲也氏が入社しました。山﨑氏は東京のシステム開発会社でSEとして働いた後に同社に転職。2023年の5月よりDX事業戦略室 室長をつとめています。

山﨑氏がまず取り組んだのは、プログラム開発によって事務作業を自動化・省力化することでした。

たとえばExcelデータを転記するなどの単純作業。それまで何十ファイルにもわたって転記するような作業を人の頑張りで行ってきましたが、それを自動化しました。また、従来は交通費や給与などの計算も、入力されたシートを一枚一枚印刷して電卓で集計し、その結果をシステムに入力していました。そうした作業もシステム化し、すべて集計された状態でデータが担当者の手元に届き、チェックすればいいだけの状態にしました。製造部門においても、設計書や資材の金額や数量などの転記作業が自動化されました。

「全社の事務に関わる作業時間が月142時間、年間約1700時間削減されました。その時間を別のより生産的な仕事に振り分けることができます。社内の様々な部門から『この作業をデジタルで自動化できないか?』という問い合わせが今も多数寄せられています。また、MotionBoard導入によって、社内の様々な作業に費やされている時間が可視化されたため、全社で工数削減への意識とデータ活用への意欲が高まりました」

と山﨑氏は話します。

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▲山﨑 氏

山﨑氏が次に取り組んだのが、社内の各部門から経営判断などに活用できる重要なデータを抽出し、データベースに集約することでした。山﨑氏は2022年から1年かけて、経理部やFA事業部、EMS事業部など社内各部門をまわり、現場の担当者に入念にヒアリング。どのデータを吸い上げるべきかを検討しました。同時に各部門の担当者がExcelなどにデータを入力する際、従来の作業手順を変えることなく、自動的に必要なデータを吸い上げてデータベースに収納するプログラムを組みました。

「おかげで順調にデータが蓄積されつつあります。資料作成のための時間を極力減らし、経営判断に使えるデータを迅速に提供することを目指しています」(山﨑氏)。

自社で培った知見や成功事例を他企業にソリューションとして提供

セキ技研では2021年末頃からDX事業の展開について議論を重ね、当初は2025年の事業化を計画していました。しかし同社の取り組みを社外に紹介したところ大きな反響があり、計画は大幅に前倒しされることに。2022年12月、新潟県が支援する800人規模のセミナーに石原氏と山﨑氏が登壇し、同社の活動を紹介したところ、多くの引き合いがあり、実際の受注にもつながりました。

同社がDXやデータ活用の推進、事務作業効率化、RPA導入などに取り組んで得られた知見や成功事例を元に、まずはコンサルティングによって相手企業の課題を把握し、社内体制構築など最初の一歩から支援を行います。

DX事業を展開する意義について関氏は次のように語ります。

「地方企業のDXに対するニーズは私たちが想像していたよりはるかに大きなものであると感じます。特に人材不足は深刻で、企業の存続にも関わってくるため、製造現場のみでなく管理分野でも省人化・自動化が強く求められています。弊社が実際に導入・活用している様々なツールや技術を、そこで得られた経験とともに、同じような課題を持つ企業にインストールしていく。そうした取組みによって、 地方企業の課題解決や生産性向上に貢献していきたいですね」。

なぜ短期間でデータ活用やDXを大幅に推進することができたのか?

セキ技研はなぜ約3年という短期間でデジタル化による業務効率改善、データ活用などを大幅に推進し、DX事業を立ち上げることのできたのでしょうか?

関氏はその背景にチャレンジ精神にあふれ、失敗を怖れない社風があったと話します。

「フットワークが軽く、新しいものにどんどん取り組める自由さがあったからかもしれません。そして人材。当初、私と石原でDXを進めていましたが、石原はEMS事業部長でもあったので、システム構築などの実務を行うにはマンパワーが不足していました。そこにSEだった山﨑が加わり、役者が揃いました。私が経営陣として明確な方向性を打ち出し、石原が綿密な構想を練り、山﨑が現場に寄り添って具体的な形を実現する。それぞれの役割を果たしながら、トップダウンとボトムアップの両面から進められたことが、成果につながったのではないでしょうか」(関氏)。

石原氏は社内から寄せられるデジタル化に対する要望にできるだけ早く丁寧に対応したこと、MotionBoardによるデータの可視化によって、次に取るべき行動を多くの社員に納得させ、実際の活動に結びつけられたことが推進の要因だったと語ります。

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DXによって、人間にしかできない活動により注力できる社会を実現したい

山﨑氏は今後のデータ活用について、データベースにまとまってきた様々なデータをMotionBoardによってどのような切り口でどのように見せればより効果的か? そのための戦略を練ることが重要だと話します。

石原氏は同社の重要課題として、データドリブン経営のさらなる浸透と、そのための人材育成を挙げました。

関氏はセキ技研が描くDXのビジョンについて次のように語ります。

「弊社は『人間にしかできない活動にもっと注力できる社会をつくりたい』というビジョンを持っています。ハードとソフトの両面から自動化・省人化を進め、より創造的で、人間らしい活動を行える社会を目指しています。

自分たちのミッションを、単なるお客様の生産手段ではなく、進化の手段になることと定め、ファクトリーオートメーションやDXを通じて、お客様の経営プロセスやオペレーションを構造的にアップデートすることが、これからの自社のある べき姿と捉えています。

可視化されたデータを元に仮説を立て、実際に行動にすることは人間にしかできない仕事です。また、仕事だけでなく、もっと社会的な活動や家族と一緒にいる時間を増やしたい人もいるでしょう。そういう精神的な豊かや満足を感じられる時間を増やす環境を実現したい。DXによって経済環境や労働環境を持続可能なものに進化させることが、私たちのこれからの事業の社会的な意義だと思っています」。

セキ技研の「困難なものに挑戦し続ける」というチャレンジ精神と時代を見据えた取り組みが、社員、顧客、社会に新たな価値を提供していきます。

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▼編集後記

日本各地の中小製造業が抱える「深刻な人手不足」「経済環境の激変」などの課題を、デジタル化・データ活用により乗り越えるべく試行錯誤されているセキ技研株式会社。「トライ&エラーを繰り返すことを良しとし、スピード感をもって新しいことに挑戦する」そんな社風のもと、常に行動し続ける3名の頼もしい姿がとても印象的です。「DX事業領域のアンバサダーとなり、自社にとどまらず地域全体を活性化させたい」という夢も語っていただきました。同社の取り組みは、日本各地の中小企業様に参考にいただきたいです。

nest企画室 春