昭和2年創業の歴史ある鋳造所がITを駆使した技術とデータドリブンで鋳造の革命児を目指す

Company Profile

社名:株式会社木村鋳造所
事業内容:自動車用プレス金型用鋳物の製造・加工・販売 工作機械・産業機械用鋳物の製造・加工・販売 エネルギー関連鋳物の製造・加工・販売 3Dプリンタを使用した鋳物の製造・加工・販売(DMP) 発泡スチロールによる模型・モニュメント・フィギュアの製造・販売(KDW) リバースエンジニアリングによる現物復元、データ化 他
資本金:8,500万円
設立:1948年5月(創業1927年2月)
URL:https://kimuragrp.co.jp/
業種:製造
利用製品:MotionBoard
用途:経営資料作成の効率化、製造現場の生産性向上

お話を伺った方


株式会社木村鋳造所
システム改革部 部長
沖 寿之氏

株式会社木村鋳造所
システム改革部  情報システム課 課長
池谷 貢一氏

株式会社木村鋳造所
システム改革部  情報システム課 情報システム係
鈴木 泰地氏

株式会社木村鋳造所
システム改革部  情報システム課
山本 夕香氏

  • 脱Excel
  • DX
  • データ活用促進
  • 企業文化改革
  • 会議の効率化
  • 業務改革
  • 製造業
  • 資料作成工数の削減

フルモールド鋳造法やITを駆使した製造技術で鋳造の新しい時代を切り開いてきた株式会社木村鋳造所。同社は2020年末にシステム改革部を発足させ、製造部門だけでなく、営業や経理、総務、人事など間接部門のデータも積極的に活用し、企業活動全体の改善とデータドリブン経営の推進に取り組んでいます。データ活用の具体的な方策や全社に浸透させるための工夫、得られた成果、将来への構想などをうかがいました。

データを製造だけでなく、企業活動全体の改善に活用する

株式会社木村鋳造所(以下木村鋳造所)は、古くから行われている歴史ある鋳造技術に、新しいITを融合することで、鋳造の革命児となることを目指しています。

木型をつくらず、発泡スチロールの模型を用いて鋳造するフルモールド鋳造法は、納期やコスト面などさまざまなメリットをもたらします。同社は1966年にフルモールド鋳造法を導入することで大きな飛躍を遂げ、世界から「フルモールドのKIMURA」と認められる企業へと成長しました。

1987年、木村鋳造所はこれまで手作業で行ってきた発泡スチロールの模型づくりにCAD/CAMを導入。CAD/CAMデータを用いることで量産鋳物への道が開かれました。

同社はフルモールド鋳造法で「自動車のプレス金型用鋳物」、「工作機械用鋳物」、「産業機械用鋳物」を製造していますが、そこから派生した技術によって、3Dプリンタを用いたダイレクトモールディングプロセス(DMP)やリバースエンジニアリングなど、ITを活用したものづくりを進めています。

1986年の基幹システム導入、2000年の基幹システム更新を経て、データを製造部門だけでなく、営業や経理、総務、人事など間接部門でも活用する流れが進行。2010年代には社内全部門への改善活動が活発化するとともに、データに基づく意思決定の重要性が経営層を中心に深く認識されるようになりました。

2020年末には情報システム課、IoT課、設備設計課をまとめ、システム改革部が発足。製造部門だけでなく、非製造部門からのデータも積極的に集約・活用し、企業活動全体の改善とデータドリブン経営の推進を目指しました。

システム改革部 部長の沖 寿之氏は次のように話します。

「弊社にはみんなで話し合い、合意の上で物事を決めていく文化があります。しかし、職種によって経験やスキル、考え方も様々。そうした人たちがお互いの言うことを理解・共感し合い、最適な意思決定を行うためには具体的な数字、データがきわめて有効です。『こういうデータがあるから、次はこうしましょう』と提案できる。誰もが同じデータを見られて同じ情報量を持っているからこそ、会社全体の力を結集し、同じ方向に向かうことができます」。

KIMURA_1.png

▲沖氏

生産性・品質が向上し、より素早く、詳細なデータの把握が可能に

木村鋳造所は20207月よりMotionBoardの本格活用を開始。Excelを用いて行ってきた会議用資料の作成を効率化するとともに、実情を反映した正確なデータを素早く提供することを目指しました。ダッシュボードを作成することで、生産、営業など日報の数字を集計し、これまで紙で提供してきた会議用資料を会議室のモニターや出席者のパソコン画面で確認できるようにしました。

MotionBoardの運用に関してシステム改革部 情報システム課 課長の池谷 貢一氏は、

「データ活用では、社内の重要なデータをデータベースに集約して一元化すること、それぞれのデータがきちんと入力されていることが大前提となります。運用メンバーに関しても個人に依存することなく、その人がいなくても運用できるようあえて複数人で担当しています。運用方法を仕様書に落とし、使える人を増やすことで属人化を防ぎ、業務の標準化をはかっています」

と語ります。

0049-Z9S_3876.jpg

▲池谷 氏

一人運用の会社が多い中、同社はMotionBoardの運用を情報システム課の鈴木 泰地氏と山本 夕香氏がメインで担当。情報システム課では合計5人のメンバーがダッシュボードを作成できます。

「二人で運用することで、わからないことがあったりダッシュボードのつくり方で迷っていたりしても、相談しながら解決できるのでとても助かっています。山本はダッシュボードの余白や色づかいなどデザイン面に詳しく、お互いにアドバイスし合えるのはすごくいい環境だと感じています」(鈴木氏)。

KIMURA_3.png

▲写真左から 山本 氏、鈴木 氏

2020年7月以来、約300種類のダッシュボードを作成し、現在稼働しているのが約220種類。その3分の2が製造部門関連で、残りが売上や受注率など経営関連の数字を集計したものです。

中でも大きな反響があったのは、工場各所に設置された自作のIoTデバイス(温度・湿度センサー)の数値によって導き出されるWBGT(暑さ指数)を表示するダッシュボード。WBGTが一定値を超えると自動的に担当管理職に警告メールが送付され、より安全で快適な職場環境と「クリーンファンドリー」の実現に貢献しています。

また、鋳造の過程で製品に塗る塗型剤や砂型の状態を数値で表示することで生産性や品質の向上に寄与しています。さらにNC工作機械の稼働状況を示すダッシュボードを作成することで運用効率も向上。製造の現場では関連するMotionBoardや基幹システムのデータを常時モニターに表示することで、作業効率・品質向上に役立てています。

それまで会議に提出する資料の作成には、データベースから必要なデータを抜き出しExcelで集計・加工するなど毎月多大な手間と時間がかかっていました。MotionBoardによって、たとえば従来毎月2日間、合計7時間かかっていたある会議の資料作成作業がほぼゼロになり、浮いた時間をより生産的な作業に振り分けることができるようになりました。

会議資料が紙からMotionBoardに切り替わったことで、ドリルダウンなどによる素早い過去データや詳細データの把握が可能になったことも大きな変化です。会議の席上で、たとえば1年前の8月の売上がいくらで、現在とどのくらいの差があるのかすぐに確認でき、過去のデータを踏まえた上で議論や意思決定を行うことができます。

このようにMotionBoardによって、そのデータを求めている人が、素早く必要なデータを入手・活用できる環境が実現しています。

社内の各部門に寄り添い、ニーズに合ったダッシュボードを提供

しかしMotionBoardがすぐに全社的に活用されたわけではありません。部署によってはそれまでと変わらず共有すべきデータを手でホワイトボードに書き込んだり、紙に印刷して配布したりしていました。また、ダッシュボードをつくっても、なかなか見てもらえないこともありました。そんな中、約3年という期間で、どのようにデータ活用を浸透させていったのでしょうか?

沖氏は相手が確実に欲しがるデータを提供することだと話します。

「これをつくったから見てくださいと、こちらから押しつけてもなかなか見てはもらえません。各部門のニーズがどこにあるのかをしっかり見極める必要があります。そのために工場をはじめ社内の各部門を回って業務を観察し、『いま困っていることはありませんか?』と直接問いかけました。そうしたコミュニケーションを通してニーズをさぐり、本当に求められているデータを提供できるようになりました。大事なのは相手に寄り添う姿勢です」(沖氏)。

池谷氏は経営トップの許可を得た上で、日報の集計をMotionBoardで行って提供するなど、必ず見てもらえるような仕組みづくりが重要だと指摘します。

鈴木氏は初めてMotionBoardを見る人になるべく違和感を与えないことを心がけたと言います。

「それまでExcelでつくって提供してきた資料のレイアウトをできるだけMotionBoardでも再現。見慣れたものを提供しながら、徐々にダッシュボードの種類を増やし浸透をはかっていきました。また、MotionBoardの画面から簡易マニュアルを呼び出せるようにすることで、操作に迷ったユーザーを素早くガイドできるようにしました」(鈴木氏)。

山本氏はやはり各部門のニーズに合ったものを提供することが大事だと語ります。

「私は塗型剤や砂型の状態を表示するダッシュボードをつくったのですが、最近それを利用している製造部門の方から、日付で検索する機能を加えてほしいという要請を受けました。その機能を追加したところ不具合が生じた際の原因究明がやりやすくなり、とても助かっているというお話を聞きました。MotionBoardの現場での活用が確実に浸透しているなと実感しています」(山本氏)。

こうした活動に加え、システム改革部 部長の沖氏と情報システム課 課長の池谷氏が十分に話し合いながら明確な方針を打ち出し、社内の各部門と交渉。その下で鈴木氏と山本氏がMotionBoardを運用するという役割分担がきちんと行われていることが、スムーズな活用浸透の秘訣のようです。

KIMURA_7.png

データを元に考え、意思決定し、行動する文化が定着しつつある

MotionBoardおよびデータ活用の推進によって、より深く正確な情報共有とデータに基づいた素早い意思決定が実現しています。それは木村鋳造所の文化や従業員の意識にどのような影響を与えているのでしょうか?

池谷氏は、

「まだ道半ばではありますが、全社的にデータを意識する文化が浸透しつつあると感じています。たとえば会議の席でも経営陣が管理職の方に、MotionBoardなどのデータを踏まえて質問する機会が増えました。管理職側もそうした質問に回答するために、あらかじめデータをしっかりとチェックし準備する必要があります。そうしたことが経営陣、管理職そして会社全体へと波及することで、データを元に考え、意思決定し、行動する文化が定着しつつあります。

また、これまで入力されなかったデータがきちんと入ってくることでデータベースの精度が向上したことや、『本当は見たくないネガティブなデータ』もきちんと表示されることで、会社のより正しい状況を把握できるようになりました」

と語ります。

鈴木氏はこれまで見られなかったデータを見られるようになり、苦労して作成していた資料を簡単に出せるようになったことで、業務の効率化や生産性向上につながっているという声が様々な部門から寄せられていると話します。

KIMURA_6.png

過去のデータを有効活用することが、未来を切り開く鍵になる

木村鋳造所は今後どのような方針でMotionBoardとデータの活用を推進していくのでしょうか?

同社では創業100周年を迎える2027年までに社内で必要なデータがすべて1カ所から得られるよう、ポータルサイトの整備を考えています。

また、池谷氏は社内のユーザーがデータを見て、それを実際の行動にきちんと結びつけるため、勉強会や階層別研修によってユーザー側のレベルも上げていきたいと話します。

「運用側の情報システム課も鈴木を中心に、より価値の高いデータ活用を進めていきたい」(池谷氏)。

鈴木氏はMotionBoardを活用する階層を経営層、管理職層から一般の社員へとさらに広げていきたい、そのためには運用側から歩み寄り、対話・共感する姿勢が大切だと言います。

「今後もウイングアークさんと協力し合い、nestから得られた知見を社内にフィードバックすることで、社内でのデータ活用をいっそう推進していきます」(鈴木氏)。

沖氏はデータ活用の最大のメリットは、過去のデータを未来のために活せることだと語ります。

「私たちはこれまで多くのデータを入力し、保存してきましたが、それらを有効に活用する手段がありませんでした。技術は様々な過去の経験から成り立っているので、過去のデータを活用することはとても重要です。

過去のデータを可視化し活用することで、ある技術を持っている人が異動や退職などでいなくなった際、その技術や経験がない人でもその仕事を引き継いで問題なくできるようになる。個人のスキルに頼る業務から標準化された業務へと変えていくことができます。今後の高齢化や少子化を見据えたとき、そうした業務の標準化は避けては通れません。そうした点でもMotionBoardなどを用いたデータ活用はいっそう重要になっていきます」(沖氏)。

ITを駆使した鋳造技術で夢をかたちにし、世界の人々に幸せを届ける。」という木村鋳造所の存在意義を達成するため、データ活用への取り組みは続いていきます。

KIMURA_5_2.png

▼編集後記

MotionBoardユーザーの皆様から、よく「運用担当者がなかなか増えない、社内に相談できる相手がいない」というお悩みを聞きます。そのような中で「運用担当者を増やすことで属人化を防ぎ、業務の標準化をはかっている」というご意見がとても新鮮でした。また「チャレンジすることを良しとする社風」のもとデータ活用を推進すべくシステム改革部が一丸となることで、新しい取り組みを多く生み出していることが印象的でした。同社の取り組みは、データ活用浸透に悩むユーザーの皆様にぜひご参考にいただきたいです。

nest企画室 春