10年以上にわたって築いてきたデータ活用基盤構築
富士フイルムビジネスイノベーションの国内唯一の複合機・プリンター生産事業会社である富士フイルムマニュファクチャリング。基幹部品を製造する鈴鹿事業所(三重県鈴鹿市)をはじめ、大型レーザープリンターの製造を担う海老名事業所(神奈川県海老名市)、消耗品を製造する竹松事業所(神奈川県南足柄市)、トナーを製造する富山事業所(富山県滑川市)の4事業所が連携し、イメージング事業の高品質なモノづくりにあたっている。
同社の鈴鹿事業所が中心となって進めてきたのが、「Dr.Sum」と「MotionBoard」を基盤とするデータ活用だ。2010年、ERPからのデータ抽出に時間・手間を要していた鈴鹿事業所は、IT部門に頼らない現場主導のデータ活用を実現するためDr.Sumを導入。データ抽出のリードタイムが「数日」から「即時」へ短縮されたことで、現場での試行錯誤が可能となり改善活動が活発化した。その後2015年からは、MotionBoardを活用したデータ可視化に踏み出し、「i-Reporter」の採用で「入力・集計・可視化」を一気通貫したデータ活用サイクルを構築。現場の状況がリアルタイムにダッシュボードへ反映されるようになったことで、転記ミスや集計ロスがゼロになり、不具合発生時の業務フローと併せて、迅速なアクションが可能となり、不具合の発生を大幅に低減できた。
生産現場からバックオフィス部門まで利用を拡大したDr.Sum
それから10年以上が経過した現在、同社のデータ活用基盤はどのような進化を遂げているのだろうか。Dr.Sumで注目すべきは、ユーザー数の大幅な拡大だ。
同社 鈴鹿事業所 情報プロセス改革室 情報プロセス改革グループ DX推進チーム チーム長の後藤 慎介氏は、「Dr.Sumの導入当初のユーザーは鈴鹿事業所のみの669名でしたが、現在では海老名事業所、竹松事業所、富山事業所への横展開が進み、ユーザーの総数は1,214名まで増加しています」と語る。

対象業務も製造系6部門から人事、総務、購買管理などのバックオフィス系の6部門を加えた合計12部門へと広がった。同社 鈴鹿事業所 情報プロセス改革室 情報プロセス改革グループ 情報システムチームの加藤 徳司氏は「受注・出荷状況から経理、備品の検収管理まで、幅広いデータをDr.Sumから一元的に検索・参照できる環境が整っています」と述べる。利用の深化は数字にも表れている。

「導入当初909件だった検索メニューは、現在では5倍近い4,364件にまで積み上がっています。各部門が必要な項目や条件を設定した検索メニューを独自に追加してきた結果です。この仕組みがなければもはや業務が成り立たないほど、Dr.Sumは現場に定着しています」(加藤氏)
さらに同社は親会社の富士フイルムビジネスイノベーションが2013年11月に開設したベトナムの生産拠点であるFUJIFILM Manufacturing Hai Phong Co., Ltd.にもDr.Sumを展開している。当初は鈴鹿事業所のメンバーがレクチャーを行っていたが、現在では現地のITスタッフが自立的に運用・開発を継続している。
生産現場の多様な分析ニーズに応えるMotionBoard
MotionBoardの利用範囲も2015年の導入当初の一部製造部から、現在は鈴鹿事業所内の3つの製造部すべてと他の3つの事業所(海老名、竹松、富山)を合わせた、計6つの製造部門全体で利用されている。事務所や製造現場に設置された大型モニターにMotionBoardのダッシュボードを表示するデジタルサイネージとしての活用が主な用途だ。後藤氏は「デジタルサイネージには、現場の要望に合わせて現時点における各工程の進捗状況や歩留まりなどのKPIが、一目でわかるガントチャートやグラフで表示されます」と話す。さらに、ユーザー数は限られるが、より柔軟で非定型なデータ分析にもMotionBoardが活用されている。以下はその主なユースケースである。
1.出荷・梱包作業の進捗分析
プリント基板の製造部門において、紙台帳による人手の消し込み管理をi-Reporterによるデータ入力とMotionBoardでのリアルタイム可視化に置き換えた。「作業者と管理者双方の負担が軽減され、年間で約600時間に相当する工数削減効果を生み出しています」と後藤氏は話す。

2.不良分析
製造ラインで発生する不良の件数や傾向をMotionBoard上で可視化し、異常な変化点をいち早く捉えることで、原因分析と早期対処につなげる。
「特に新機種・新製品の立ち上げ時など不良が発生しやすい局面では、過去の類似ケースと照らし合わせながら状況を把握することを重視しています。過去には不良率を5分の1に低減させた実績があり、不良対策のスピードアップに大きく寄与しています」(加藤氏)
3.修理や手直し工程の分析
組み立て工程などで発生した不具合について、i-Reporterで入力した修理内容や件数、対応時間をMotionBoardで即時に集計・可視化する。加藤氏は「どの部品や工程に問題が集中しているのか把握できるようにすることで、効果が出やすい箇所から優先的に手を打つなど、効率的な改善活動が可能となりました」と語る。
4.IoTデータを用いた分析
各設備に取り付けた振動センサーなどのIoTデータをDr.Sumに蓄積し、MotionBoardでモニタリングすることで、しきい値超過時にはデジタルサイネージへのアラート表示、パトライトの赤ランプ点灯、責任者へのメール通知を実現している。
「かく拌モーターなど設備に発生している異常兆候を早期に察知し、トラブルを未然に防止する仕組みを構築したいと考えています。富山事業所で始まったばかりの取り組みですが、今後は複数事業所への展開を進めていきます」(加藤氏)
現場改善の先にある予兆分析、そして製造DXへの挑戦
ここまで述べてきたとおり、同社はDr.SumとMotionBoardを積極的に活用することで、現場起点の改善を積み重ねてきた。
一方で、後藤氏は、「これまでの活用は、どちらかというと生産現場からのリクエストに応じたボトムアップの改善が中心でした。このため経営判断のスピードアップにつながるような使い方は、まだ踏み込めていないのが実態です」と語り、現場改善にとどまらないデータ活用の必要性を強調。
そうした中でデータ分析の目指すべき方向性として掲げているのが、「予兆を捉えるデータ分析」への進化である。
「現在は不良の発生や生産進捗の遅れといった問題が発覚した後から、原因を分析して対策を検討するケースがほとんどです。今後はウイングアークが新たにリリースしたMotionBoardの『製造業向け分析ツール』の導入も進めながら、設備の稼働データや生産実績データをもとにした予兆分析(異常の兆候検知)を実践し、不良や設備トラブルの未然防止に取り組んでいきます」と加藤氏は、プロアクティブな対策を強化していく考えを示す。
生産の進捗管理についても、現在取り組みを進めている段階だ。各工程やラインごとの進捗状況を可視化・分析し、遅れが生じた際の挽回判断を現場が即座に行えるようにすることを目指している。「主要な設備が万一止まったときに、それがどの程度の緊急事態なのか、まだ挽回できるレベルなのかを一目で判断できるようにする必要があります」と加藤氏は語る。納期までに残り時間や設備能力を踏まえた判断をデータに基づいて即座に行える仕組みを構築し、熟練者の勘や経験、手計算に頼らない正確な判断と生産計画の柔軟な見直しを支援するという。
一方で、富士フイルムビジネスイノベーションおよび国内外の生産事業会社全体で整備が進められている他社のクラウドベースのデータウェアハウスやBIツール、ローコード開発ツールといった基盤と、現場に根付いたDr.SumやMotionBoardの役割分担を明確にしながら、「全社的なデータ分析・活用の民主化を推進するプラットフォーム」として、Dr.SumとMotionBoardを活用していく方針だ。
さらに生成AIへの期待も大きく、「より簡単にメニューや画面が作れるようになれば、もっと活用の幅が広がるはずです」と加藤氏は語り、生成AIの活用こそが現場主導のデータ分析・活用をさらに加速させる鍵になると見ている。「新しい機能や知見を積極的に取り入れながら、データドリブンのモノづくりをもう一段上のレベルで活性化させていきます」と後藤氏も意欲を示す。
今後は、部門横断の情報共有や経営層の意思決定にデータを活かすフェーズへと展開していく方針だ。同社にとってDr.SumとMotionBoardは単なる分析ツールではなく、製造DXを段階的に進化させていくための基盤であり、その活用はとどまることなく広がり続けていく。
※ConMas i-Reporterおよびi-Reporterは、株式会社シムトップスの商標または登録商標です。






