DX推進に向けレガシーシステムのマイグレーションに着手
家電から生活用品、食品まで幅広い商品群で知られるアイリスオーヤマ。生活に欠かせない日用家電から、暮らしの細々とした困りごとを解決するグッズまで、生活者の多種多様なニーズに応える“ものづくり”に定評がある。
そんなアイリスオーヤマが近年注力しているのは、天然水やパックごはん、赤ちゃん用紙おむつといった食品、消耗品事業だ。アイリスオーヤマ システム部 部長の阿部弥孝氏は「お客様との接点を増やし、アイリスの経済圏を拡大していく。加えて、労働力不足の課題解決に向けた法人向け掃除ロボットや警備ロボットといったサブスクリプションビジネスにも力を入れています」と語る。扱う商品の幅が広がったことで、取引先も日々拡大しているという成長ぶりだ。

こうした事業展開を支えるシステム基盤の主軸に置かれているのがDX戦略とデータドリブン経営だ。しかしその足かせとなっていたのが、ビジネスの入口ともいえる受注出荷システムだった。
「社内の基幹業務システムは、全体として同じデータベース上で動いています。ところが一部のシステムがレガシー環境だったため、データドリブン経営を進めようにも、そこだけリアルタイムでデータが共有できない状態でした。しかも一番の入り口となる受注のデータがレガシー側にあるため、そのデータを有効活用できていなかったのです」(阿部氏)
受注出荷システムは、国産のオフコン上でCOBOLによって40年近く稼働してきた。そのためリアルタイムなデータ共有以外にも、「開発できる人材の枯渇」という課題も抱えていた。レガシーの言語なのでそもそも扱える人が少なく、改修したくとも、限られた人数ではスピード・生産性ともに上がらない。「開発言語を変えて生産性を上げることも、刷新の目的のひとつでした」と阿部氏は振り返る。
オフコン同等の「スプール管理」を持つ製品は2社だけ。PoCを経てSVFを選定
以上の課題解決に向け、2022年に受注出荷システムのオープン化プロジェクトがスタートした。
アイリスオーヤマでは、ほぼすべてのシステムを内製で開発している。今回の新受注出荷システムも、AWS上にスクラッチで開発した。サーバーの運用保守も自社のチームが担う。
ただ帳票基盤だけは、自社開発ではなくパッケージを採用する方針を固めた。最大の理由は、オフコン帳票システムが備えていたスプール機能の実装だ。
「帳票の印刷データをスプール領域に一時保管して効率的に印刷できるスプール機能は、膨大な帳票を効率的かつスピーディーに印刷するために欠かせません。従来のオフコンにあったスプール機能を、新しいオープン環境で実現できるかが大きなポイントでしたが、これを内製で実装・運用するのはなかなか難しかったのです。そこでスプール機能を備えた外部の帳票基盤を検討することになりました」(阿部氏)
帳票基盤の要件定義では、40年前から積み上げられてきた業務をそのまま遂行できること、そのうえで機能を新しくし、より使いやすくできるかどうかが論点となった。この要件を満たす製品は、SVFともう1社の2製品に絞られた。そこでPoCを実施し、最終的に採用されたのがSVFだ。
決め手は3つある。第1に操作性、第2に価格、そして第3がプリンターへの対応力だった。同社は印字する帳票が非常に多く、さまざまなメーカーのプリンターを使っているが、マルチベンダー対応しているのはSVFだけだったという。
印刷スピードが速かったことも導入を後押しした。取引のなかには、朝注文を受けて当日の夕方には商品を届けなくてはならないケースもある。そのため出荷時間帯は午前中に集中しており、スピードをもって帳票を出さないと間に合わない。SVFはこの要件を十分に満たしていた。
加えて阿部氏は前職でSVFを利用しており、製品理解と市場シェアの高さを把握していたことも大きかったという。
GUIツールで帳票開発の担い手が増加、ビジネス拡大に
こうしてSVFの導入が決まり、2023年7月に開発環境の構築に着手。SVFの導入に当たっては、サーバーを用意してインストールするだけで、ほとんど時間を要さなかったという。
そこから約1年をかけて、およそ500本もの帳票が作り込まれていった。500本という数字の背景には、同社のビジネスモデルがある。アイリスオーヤマは問屋を通さず、量販店やスーパーマーケットと直接取引を行うため、取引先ごとの帳票・ラベルが必要になるからだ。そのため新受注出荷システムの構築に当たっては帳票の棚卸しも実施し、取引先と相談しながら同一グループ企業向けの帳票を統合するなど、整理していった。それでも約500本が移行対象となった。
帳票の作成は、デザインもフォーマットも一からの作り直しとなった。ここに大きく貢献したのが、SVFの帳票デザインツールであるSVFX-Designerだ。
帳票開発チームのリーダーとしてプロジェクトに参画したシステム部の小田暖人氏は次のように語る。

「以前のオフコンでは、帳票を開発する際にはコマンドを使って印字の位置情報を指定していました。しかしSVFX-DesignerはGUIの操作のため、見た目のまま作れるというメリットがあります。おかげで導入に当たっては、システム開発メンバーに加え、開発担当以外の方にも手伝っていただくことができました。誰でも使いやすい開発ができる点は、非常に大きな強みだと思います」
一方で苦労もあった。「最大の壁は、新旧でまったく同じ帳票を出力する」ことだったと小田氏は話す。バーコードの位置や大きさは、ほんの少し異なるだけでもスキャンできなくなる。自社でOKでも、取引先でスキャンできないということもあり、先方確認を重ねながら1つひとつ検証を積み上げた。
内製の受注出荷システムとSVFの連携は、想定以上にスムーズに進んだ。SVFにはJava専用のライブラリと豊富なドキュメントが用意されており、Javaから帳票を出力する仕組みを簡単に開発できたという。
システムはAWS上でホットスタンバイ構成による冗長化を実現。この構成の検討にあたっては、ウイングアークの支援も受けた。「構成の立て方をいろいろ相談に乗っていただき、実際に本番環境で切り替えの動作確認まで行うことができました。日々の開発でわからないことも問い合わせればすぐにレスポンスが返ってきて、非常に進めやすかったです」(小田氏)
帳票開発の担い手は4倍へと拡大、滞留案件の解消が事業拡大を後押し
こうして帳票基盤を含めた新受注出荷システムは2025年9月に本稼働を迎え、さまざまなメリットをもたらした。Universal Connect/X(UCX)のメール送信機能もそのひとつだ。
同社は自社工場だけでカバーしきれない出荷を外部倉庫に委託しており、荷物を送る際には出荷情報を先方へ連携する必要がある。以前は運用管理ツール経由でメールサーバーと連携し、出荷情報を渡していたが、新システムではSVFで自動的にデータを作成し、そのままメールで外部倉庫へ送信できるようになった。「以前は複数の仕組みにまたがっていた処理が、1つの流れで完結するようになりました。メールを送るタイミングは、タイマー設定もできますし、出荷ボタンを押したタイミングでの自動送信もできます」(小田氏)

現場からの評判も上々だ。今までの帳票印刷は白黒のコマンド画面だったが、ブラウザ上できれいに見える。操作性も利便性も向上した。
運用負荷も軽減された。過去の帳票を再出力する際、従来はシステム部に連絡し、データベースから引き出して印刷する必要があった。現在はスプールから、現場スタッフが必要な帳票を選んで出力できる。工場ごとに出荷指示書やラベルといった分類を整理して提供したことも好評だという。
印刷の運用も変わった。従来はスプーラをインストールした特定の端末からしか印刷指示ができなかったが、SVFのプリントアシスタント(PA)端末を介することで、どの端末からでも印刷指示が可能になった。国内11工場において1日10万枚の印刷処理を安定したパフォーマンスで実行している。
最も大きな変化は開発体制だ。旧システムでは帳票開発ができる人材はわずか少数だったが、現在は約4倍に増員できた。
これにより加速しているのが、ビジネスの拡大スピードだ。同社は問屋を通さず取引先と直接やり取りするため、EDIでなければ取引ができないというケースも多い。新規取引を始めるにはEDIの送受信の仕組みと、得意先専用のラベルがセットで必要になる。
COBOL時代は対応できる人員が少数に限られていた。このため帳票開発案件は毎月数十件が詰まっている状態で、ビジネスロスが生じていたという。今回SVFへの移行により、開発の担い手が増え、滞留していた案件は解消に向かっている。消耗品事業の拡大に伴い、新たな取引先が増えているため、帳票開発の生産性がそのままビジネス拡大につながっているのだ。
開発工数も、従来はコマンドの開発とCOBOLの開発をそれぞれ行う必要があったが、現在はJavaと帳票定義体の組み合わせで完結。これにより、ラベルで約1.5倍程度、帳票類で1.2倍程度は、開発速度が改善したという。以前はオフコンベンダー任せだったメンテナンスも自社の管理下で実現できるなど、大きな成果が出ている。
レガシーからの完全脱却を加速し、帳票基盤のグループ展開へ
同社ではSVFの活用範囲をさらに広げようとしている。
第1は、今回は置き換えきれなかったVisual Basic 6.0(VB 6.0)で開発されているレガシー領域の移行だ。「COBOLに比べれば深刻度が高くなかったため優先度を下げたのですが、この領域をSVFに置き換えられる見込みが立ちました」と阿部氏は語る。
第2はグループ展開だ。アイリスフーズ以外のグループ会社は別の帳票の仕組みを利用しており、これを一本化できないかを検討している。
事業の成長に合わせて帳票は増え続ける。その増加を“制約”ではなく“ビジネスチャンス”に変えたことが、今回の刷新の最大の成果といえる。ラベルや帳票がなければ、新しい商売は始まらない。その最前線を、SVFが支えている。






