既存BIツールのサポート終了を見据え、次世代の分析基盤へ移行
不動産業界では、DXの推進による業務効率化や事業機会の拡大、経営の高度化は喫緊の課題だ。東京建物は、デジタル技術を活用した新たな価値創出や、情報発信・デジタル活用による顧客体験価値の向上、顧客データの活用を推進している。そして、分譲マンションの営業、マーケティング、事業推進などさまざまな部門が保有するデータを活用し、迅速な意思決定と顧客理解の向上に取り組んでいるのが、住宅事業本部だ。
同本部では約20年前から同一のBIツールを継続的に運用してきた。顧客情報や営業情報を分析し、営業報告書の作成や販売戦略立案に向けたレポート作成など、販売状況分析を支えていた。近年では、Salesforceを基幹システムとして採用し、顧客情報、営業情報、契約情報、物件情報などの一元管理するとともに、各種ドキュメント管理の基盤として活用している。Salesforceへの切り替え後も、既存のBIツールを用いて集約データを分析用に抽出・加工し、販売状況分析に必要なレポートを作成してきた。
こうしたなか、住宅事業本部では次なる成長に向けて、さらなるデータ活用の高度化を推進している。その背景について、住宅事業企画部 企画グループ 課長の鎌田 絵美氏は「不動産市況が変化し、不透明な市場環境下でも確実に成果を上げるためには、これまで培ってきた営業の知識や経験をデータとして蓄積・活用し、どの社員も成果を上げられるような営業力の底上げを目指しています」と説明する。しかし、既存のBIツールを主軸とした現状のデータ分析基盤にはいくつかの課題が浮き彫りとなっていた。
既存の仕組みには大きく2つの課題があった。1つは営業部門が利用する販売状況分析基盤としての運用負荷とリアルタイム性の課題、もう1つは分譲マンションの収支管理におけるExcel集計作業の負担である。
販売状況分析における課題の1つが、Salesforceデータを既存BIツールで分析する際の取り込み作業だった。「既存のBIツールは当社専用のオンプレミス環境で運用しており、Salesforceに蓄積されたデータを分析に利用するには、ユーザーがその都度、データを取り込む操作を行う必要がありました」と鎌田氏は説明する。

「処理には1物件あたり平均5分程度を要するほか、Salesforceの情報を更新するたびに再度取り込み処理を行う必要があったため、担当者の作業負荷が大きく、すぐにデータ分析に取りかかれない状況もありました」(鎌田氏)
また営業担当者からは、蓄積した顧客や営業データをさまざまな切り口で確認し、販売状況や顧客傾向を把握したいというニーズも寄せられていた。「営業担当者が自らBIツールを操作して必要なレポートを作成することは容易ではなく、私が主担当者として、要望に応じ作成することも多くありました。通常業務と並行して対応していたため、内容が複雑な場合には、作成に数日程度を要することもありました」と鎌田氏は振り返る。
こうした状況から、営業担当が自らタイムリーにデータを分析するには、蓄積したデータから必要な情報を迅速に確認・分析できる環境が必要と鎌田氏は考えていたという。
一方、収支管理にも課題があった。分譲マンションの収支管理では、プロジェクトごとの収支情報や予実管理情報を可視化し、収支作成時点における比較や複数プロジェクトの横断的な比較・分析を実施していた。具体的には、プロジェクトごとに作成した収支データExcelを、各部室店でExcel集計作業を行っていた。住宅事業企画部 企画グループ 課長の近藤 亘氏は「集計作業に大きな負担がかかっていたほか、業務の進め方が本部内で統一されていないという課題も生じていました。統一された仕組みのもと、様々な担当者が作業負荷を抑えながら、スムーズに予実管理を行える環境が求められていました」と説明する。

Salesforceとの高い親和性と容易な操作性を評価し、MotionBoardを選択
住宅事業本部は、これらの課題を解決するため、2027年に既存BIツールがサポート終了するなどを契機に新たな分析基盤の構築に着手した。BIツールの選定において重視したのは、営業担当者が違和感なく利用できるよう、従来のレポートイメージを大きく変えることなく移行できることだった。鎌田氏は「営業担当者は、分譲マンションのモデルルームで勤務しながら、1週間のお客様の動向等をまとめた営業報告書を毎週日曜日に作成します。出力される分析レポートは短時間で集計でき、同じ条件で正しく集計し出力できることが前提となりました。そのため、従来のレポートイメージを大きく変えずに移行できることが不可欠でした」と語る。
また、Salesforceとのスムーズなデータ連携により、最新のデータをタイムリーに分析できることも重要な要件だった。「Salesforceとのスムーズなデータ連携に加え、集計処理やその後の比較・分析のしやすさを重視して製品選定に臨みました」と近藤氏は付け加える。
こうした条件に基づき複数のBIツールを比較検討した結果、最終的に選ばれたのが、ウイングアークのデータアプリ基盤「MotionBoard Cloud for Salesforce」だ。
鎌田氏は、「MotionBoardは、従来利用していたBIツールのレポートや分析資料に近いレイアウトでボードを作成でき、利用者が違和感なく移行できると感じました。また、操作が分かりやすく、表形式で全対傾向を把握できるだけではなく、集計値の内訳から顧客単位の明細まで遷移し、詳細な分析を行える点を評価しました」と選定理由を話す。
また、実際に営業担当者にデモを実施した際の反応も良く、業務での具体的な利用イメージを描けたことも採用を後押ししたという。
「既存のBIツールでは、Salesforceの登録内容を修正するたびにデータ取り込み処理を実行してから分析する必要がありました。MotionBoardであればSalesforceとの高い親和性によって、分析を開始するまでの時間を短縮できるだけでなく、その後の資料作成も含めて利用者の負担軽減につながると考えました。また、大量データへの対応や、グラフ等での表現が容易にできる柔軟な分析や可視化という点も評価しました」(鎌田氏)
一方、収支管理の観点では次の点も評価された。近藤氏は「MotionBoardは集計結果を従来のExcelに近い形式で表示できることに加え、Salesforceに格納された収支データをHeroku経由でリアルタイムに集約・加工し、可視化できる点も評価しました。多角的な比較・分析にも対応しやすいことから、収支管理でも採用を決めました」と強調する。
さらに、ウイングアークから不動産業界の実務を想定した画面を用いた提案があったことも採用のポイントとなった。「既存のBIツールで利用しているレポートをもとにグラフ化するなど、ウイングアークは当本部の業務に沿った具体的な画面イメージを提示してくれました。単なる機能説明に留まらず、導入後の活用方法までイメージできる提案だったことを高く評価しています」(鎌田氏)


Salesforceの顧客・営業データをリアルタイムに可視化
その後、ウイングアークと開発ベンダーの協力のもとでMotionBoardを活用したデータ分析基盤の構築を開始。2026年7月に本番運用を迎えることができた。ウイングアークからは、運用開始後を見据えたオンボーディングプログラムやeラーニングも提供されている。また、チャットで質問できる環境に加え、営業担当者にも相談できるなど、利用開始後の定着支援体制も整備された。
現在、MotionBoardを用いた販売状況分析は分譲マンションの当社が幹事を務める全プロジェクトの営業現場を対象に、約130名のユーザーが利用している。今回のシステムでは、Salesforceに蓄積された大量の顧客・営業データを活用するため、PaaS型のWebアプリケーション開発プラットフォーム「Heroku」を活用したデータ基盤を構築。Salesforceの顧客情報、営業情報、契約情報、物件情報などをHeroku上で集約・加工し、MotionBoardで効率的に分析するためのテーブルやビューを作成している。これにより、問合せや来場者状況、契約状況、販売進捗などをリアルタイムに可視化できるようになった。
MotionBoard導入による大きな効果の1つが、Salesforceデータの取り込み・更新作業の削減である。「従来は行っていたデータを分析環境へ反映するための取り込み作業が不要になりました。常時15~20物件が稼働する中、営業担当の報告書作成時間の短縮にもつながっていると考えています」と鎌田氏は語る。
また、MotionBoardの画面では、営業担当者が必要な基本情報をすぐに確認できるよう、定型レポートが用意されている。その定型レポートを利用し、フィルター機能を活用するという簡単な操作で、営業担当者が自ら必要なデータを確認し、状況に応じた分析ができる環境も整った。
収支管理におけるExcel集計を効率化し、本部全体の業務負荷を削減
一方、収支管理ではMotionBoardでプロジェクトごとの収支情報や予実管理情報が可視化された。収支作成時点ごとの比較や複数プロジェクトを横断した比較・分析が行えるようになった。
収支管理では、プロジェクトごとにExcelファイルで情報を管理しており、営業収益や費用、利益、投資額、キャッシュフローなど、多くの項目を扱ってきた。「従来は複数のExcelファイル等から得られる契約実績や会計実績などの情報を更新してプロジェクトごとのExcelファイルを作成し、さらにプロジェクトごとのExcelファイルで関数等を用いて一覧化し集計表を作成しなければなりませんでした。こうした作業は、情報の更新や差し替えが発生するたびに作業を繰り返す必要があり、各部室店の担当者にとって大きな負担となっていました」と近藤氏は振り返る。
そこでまずはプロジェクトごとのExcelファイルの作成方法の見直しを着手し、プロジェクトごとのExcelファイル作成の簡素化を実現した。更に、そのプロジェクトごとのExcelファイルをSalesforceに格納し、Herokuに読み込ませたデータをMotionBoardで集計・可視化する仕組みを構築した。併せて、MotionBoardでプロジェクト単位や年度単位で必要な収支情報を表示できるような仕組みを構築したことで、複数のExcelファイルから一覧化した集計表を作成する作業を削減。収支管理を一元的に行える環境が整備できた。特に効果を発揮したのが、Excelファイルを更新した際の対応である。
プロジェクトごとのExcelファイルでは多岐にわたる項目を管理している一方、集計表では1プロジェクトあたり1行に必要な情報をまとめている。「これまでは、一度作成した集計表の更新作業が困難でした。しかし現在は、更新したExcelファイルをSalesforceに再格納し、再度MotionBoardに取り込むだけで更新情報を速やかに反映できるため、更新対応の負荷を大幅に軽減できました」(近藤氏)


また、これまでは集計作業をする前にプロジェクトごとのExcelファイルに誤り等がないかを確認する必要もあり、その作業も大きな負担となっていた。「SalesforceからMotionBoardへデータを取り込む際にエラーを自動検知する仕組みも構築したことで、誤り等のある項目をすぐに特定できるようになり、事前チェックの作業負荷も大幅に減らせました。これらの仕組みと、各部室店で行っていた集計作業の削減効果を合わせると、本部全体で年間約1ヶ月分に相当する作業を削減できたと感じています」(近藤氏)
データ活用の範囲を拡大し、さらなる業務効率化と新たな価値創出へ
MotionBoardの導入によって、利用者のデータ活用に対する意識が高まったことも大きな成果だという。「営業部門の担当者からは、『このような分析資料を作れないか』『こうしたデータを見たい』といった相談も増えており、部門内でデータ活用への意識が高まっていることを実感しています」と鎌田氏は話す。
今後はSalesforceへのデータ集約をさらに進め、建築発注実績の明細などを一例に、MotionBoardで分析するデータの範囲を拡大していくことも検討している。また、データ取得から反映までの一連のプロセスを自動化することも視野に入れている。近藤氏は、「社内外のさまざまなデータとAIを組み合わせ、業務効率化にとどまらず、事業成果の向上や新たな価値創出につなげていきたいと考えています」と語る。
MotionBoardの採用により、データ集計業務の大幅な効率化と、高度なデータ活用を推進する基盤を実現した東京建物。今後も、次なる事業成長を支えるデータ活用に取り組んでいく考えだ。






