IT部門とビジネス部門の共創で、さらなるデジタル変革を推進
農林中央金庫は、農業協同組合(JA)・漁業協同組合(JF)・森林組合(JForest)など、農林水産業者の協同組織を基盤とする全国金融機関である。1923年の設立以来、JAバンク、JFマリンバンクの事業を支えるリテールビジネスをはじめ、農林水産業や食農バリューチェーンに関わる顧客への金融サービス、国内外における投資や融資など、幅広い領域で事業を展開してきた。
これまで農林中央金庫では、デジタルを活用した業務効率化、持続的な成長に向けたビジネス変革に重点を置いて取り組んできた。近年では、ITやAI技術などの積極的な活用にも力を入れている。2021年にはMicrosoft 365を、2022年にはBoxなどのクラウドサービスを全社標準の基盤として導入し、ワークフローや文書管理、コミュニケーションの高度化を進めてきたのはその一例だ。
「DXは単に新しいシステムを導入するだけではなく、業務プロセスや職員の働き方、さらには組織風土そのものを変えていく取り組みとして位置付けています。これにより、全社的なIT・デジタル人材の育成や、職員自らが業務課題を見つけ出し、デジタルを活用して解決できる環境づくりにも注力してきました」と、ビジネス共創部 ビジネス共創班の中川 起輝氏は強調する

この取り組みを加速させるための組織が、2026年度に新設された「ビジネス共創部」だ。同部はビジネス部門とIT・デジタル部門が一体となり、ユーザー部門における業務効率化や業務の堅確性の確保、そして収益向上を実現するためのさまざまな施策を推し進めている。
ServiceNowを導入し社内ワークフローを最適化
農林中央金庫がデジタル化の一環として行ったのが、ServiceNowによって社内稟議や各種申請に使用していたワークフローシステムの刷新である。
ビジネス共創部の小宮 裕樹氏は、これまでの課題について、「従来のワークフローシステムでは、複数のシステムに同じ内容を繰り返し入力する必要があったほか、申請が差し戻された場合には再入力が発生するなど、業務プロセスの分断が生じていました。職員の業務負荷を軽減するため、申請から承認、タスク管理、文書保存までをEnd to Endでつなぐ仕組みの実現が求められていました」と説明する。

そこで、農林中央金庫は旧ワークフローシステムの更改を契機にリプレースを決定。新システムとしてServiceNowを選択した理由はいくつかあった。
まず、Boxやグループウェアなどのクラウドサービスや業務システムと柔軟に連携し、それぞれの強みを生かして業務プロセス全体を最適化できることだ。そして、App Engineで共通機能を部品化し、複数の業務アプリケーションに再利用できるため、迅速な展開と運用の標準化が可能となる。さらに、稟議・申請にとどまらず、職員向けサービスやタスク管理、顧客との接点など、グループ共通のデジタル基盤として業務拡張ができる。また、BPRと一体で導入し、不要な手続きや重複作業を見直したうえで業務プロセスを実装できることだ。
現在、ServiceNowは農林中央金庫グループ全体で約7,000人が利用する基盤に成長し、申請・承認プロセスの簡素化や承認スピードの向上、タスクの進捗状況の可視化を果たした。結果的に、これまでのシステムと比べて開発期間や導入・運用コストも抑制できたという。
ServiceNowの利用拡大で浮上した「帳票」の課題
ServiceNowによる社内ワークフローは、個別性の高い業務や金融機関特有の業務領域へと適用範囲を拡大していった。そこで新たな課題として浮上したのが、業務で必要となる帳票の出力である。
金融機関では社内だけでなく、顧客など社外に向けて帳票を発行する業務も多い。こうした帳票には、金融機関ならではの記載内容の正確性はもちろん、必要な情報を漏れなく盛り込む必要がある。定められた様式に沿って情報を適切に配置し、見やすく整えることが求められる。
「受発注購買業務や資金動向管理、出資者向けポータルなど、一部で帳票出力が必須要件になります。また、押印や可変長の要素になる住所なども所定の位置に正確に配置しなければなりません。こうした厳格なフォーマットや多様な帳票要件に柔軟に対応できる仕組みが必要でした」と小宮氏は振り返る。また、これまではExcelを使った帳票作成や情報の転記作業が発生することもあり、帳票の種類や数が増えるにつれて運用負荷が課題となっていた。
こうした課題の解消に向けて、農林中央金庫はServiceNow上で帳票ごとの個別開発やカスタマイズはできる限り避けるようにしたかったという。小宮氏は、「ServiceNow側で帳票ごとにカスタマイズする方法は、初期開発に加えて業務変更に伴うカスタマイズの発生、継続的な保守にも負荷がかかる懸念がありました。加えて、担当者が変わるたびに仕様や構築方法を確認し直さなければならず、そうした事態も回避したいと考えていました」と語る。
検討を重ねたうえで農林中央金庫が定めた方針が、ServiceNowと帳票出力の仕組みを切り分けることだった。ビジネス共創部の中村 有比子氏は、「当初は他のソリューションに備わっている帳票出力機能の利用も検討しました。しかし、帳票の入出力形式に関する制約などを踏まえると、求める帳票要件への柔軟な対応が難しいことから、帳票出力については専用のソリューションを導入したほうがよいと判断しました。」と振り返る。

ServiceNowとの高い親和性、高度な帳票出力を評価しSVF Cloudを選択
ServiceNowと連携可能な帳票出力システムの導入検討に舵を切った農林中央金庫。選定で重視されたポイントが、ServiceNowとの親和性に加え、帳票の表現力、開発・保守のしやすさ、将来的な活用の拡張性である。これらの要件を満たすものとして最終的に選ばれたのが、ウイングアークが提供する帳票ソリューションServiceNowと連携するクラウド帳票サービス「SVF Cloud」である。
SVF Cloudは、項目やデータの種類が多い帳票であってもゼロから作り込む必要がなく、フォーマットに沿って効率的に作成できる点が評価された。小宮氏は、「ServiceNowのバージョンアップを考慮した際にも、帳票出力をSVF Cloudに任せれば、ServiceNowのカスタマイズを必要最小限に抑えられます。継続的な利用や、将来的な帳票の種類の増加、幅広い用途を考えた場合、SVF Cloudが最適なソリューションであると判断しました」と話す。
中村氏も「他の帳票出力サービスがPDFやWordを中心としているなか、SVF CloudはExcelを含め可変長の帳票にも対応しており、渡した値に応じて帳票に記載する項目のサイズを柔軟に調整できます。大量データの処理を前提とした仕様であったことも選定理由の1つです」と付け加える。
SVF Cloudを利用した帳票システムの開発は2026年4月より開始した。SVF Cloudは、開発も容易に行える点も特徴的だ。中村氏は、「他社製品の多くが、スクリプトベースで開発するものでした。基本的にSVF Cloudは、GUIで帳票を開発できます。これにより、将来的には非IT部門の担当者が自ら帳票のレイアウトを作成するといった運用を行うことも視野に入れられます」と語る。
「英語が中心の海外製ツールと異なり、SVF Cloudは日本語のドキュメントやQ&Aが充実しています。ServiceNowとの接続方法など、開発時に必要な情報を入手しながら進められる点も安心材料となりました。ウイングアークにより日本語で問い合わせやサポートを受けられることも、導入後の開発・運用を進めるうえでメリットとなりました」(中村氏)
年間約5万枚の帳票出力を計画、SVF Cloudの安定稼働が円滑な業務をサポート
現在、SVF Cloudを活用した帳票出力の仕組みを開発しており、SVF Cloudが使われる受発注購買管理システムの帳票が、2026年11月に本稼働を予定している。2027年4月には、資金動向システムの帳票出力の公開が予定されている。
今回のシステムは、ServiceNowにユーザーが入力したデータをもとに、ほかのマスターとして保持している情報を紐づけた帳票がSVF Cloudで出力される。出力されたPDFやExcelによる帳票は、契約システムやBoxに格納される仕組みとなっている。この仕組みを通じて、受発注購買管理システムでは18種類の帳票が年間5万枚ほど出力される予定だ。一方、資金動向システムでは50種類の帳票出力が想定されている。
SVF Cloudは、ユーザー視点においてServiceNowに機能が集約されることで、Boxへの文書保存が自動で行われるようになるなど、本稼働前にもかかわらず、すでに業務が効率化されている。

また、開発側では、SVF Cloudを通じて、より複雑な帳票要件に柔軟に対応できるようになり、要件の調整にかかるコストや開発工数の削減が見込まれている。中村氏は「SVF Cloudの安定性により、円滑な業務遂行が期待できます。帳票を出力後もユーザーによる作業は続くため、帳票出力に時間がかかると業務が停滞してしまいます。SVF Cloudは、PoCの時点から安定して稼働しており、全くストレスなく利用できています」と評価する。
このほかにも帳票の管理性も向上しているという。中村氏は、「これまで帳票を出力する際は、関連資産が分散し、元となるテンプレートがどこにあるのか分からないこともありました。一方、SVF Cloudは帳票やレイアウトを一元的に管理できるようになっています。レイアウトを修正する際にも修正箇所をすぐに特定できるなど、管理しやすくなっています」と語る。
農林中央金庫は、今後もデジタル化に向けた取り組みを推進していく。その1つがAIの活用である。中川氏は「AIは一部の部門だけでなく、職員一人ひとりが日常業務で活用することを目指しています。汎用的な生成AIの環境整備に加え、Boxに集約した社内文書の検索、営業支援、投資判断、社内ヘルプデスクなど業務特化型AIエージェントの開発を進めていきます。さらに、市民開発を支える環境やAI推進アンバサダー、研修・情報発信を通じ、安全かつ主体的にAIを活用できる組織づくりに取り組んでいます」と説明する。
一方、農林中央金庫グループでは、これまで自らServiceNowやBoxを導入・活用するなかで、業務整理やシステム構築、利用の定着、運用改善などの知見を蓄積してきた。こうしたノウハウを外部向けのビジネスとして展開していく。
中川氏は「外部企業へのServiceNowやBoxの導入支援の取組みを2025年4月から開始しています。ServiceNowやBoxのライセンス提供だけでなく、導入前の業務整理や構想策定、実装、導入後の活用・定着など、ユーザーとしての実体験に基づき、お客様と伴走できることが私たちのセールスポイントです。自社で実際に悩み、試行錯誤しながらDXを進めてきたからこそ、導入時につまずきやすいポイントや、現場に定着させるための工夫もお伝えできます。この経験を活かし、自社の取組みだけに留まらず、今後もお客様の業務変革と新たな価値の創出を目指していきます」と意欲を見せる。
SVF Cloudによって、コストや開発負担を抑えながらServiceNowとの連携による高度な帳票出力ができる基盤を作り上げた農林中央金庫。小宮氏は今回のプロジェクトを次のように総評する。
「帳票は金融機関に限らず、さまざまな企業で不可欠となるものです。今回のプロジェクトを通じて、SVF Cloudの使いやすさや利用メリットを知ることができました。農林中央金庫での活用拡大とともに、外部向けのビジネスの展開において帳票出力に関するお客様のニーズがあれば、SVF Cloudを選択肢として紹介していきたいと考えています」(小宮氏)






