「地方自治情報化推進フェア2018」イベントレポート②

去る10月23日(火)、24日(水)の両日、東京ビッグサイトで「地方自治情報化推進フェア2018」が開催された。会場には、全国各地から地方行政に関わる組織や団体が、情報収集や課題解決のヒントを求めに訪れ、会場は活気にあふれていた。今多くの自治体では、政策立案や行政課題把握のためのデータ活用に注目し、各地で取り組みが始まっている。データ活用の目的はこれだけではない。他にもデータオペレーションによる業務効率向上や省力化、新しい価値の創出、利用者へのより良いサービスの提供など、AIやRPAなど、テクノロジーの活用によって新たな行政運営を実現しようという動きは勢いを増すばかりだ。背景の一つにあるのが、政府が推進するEBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング。証拠に基づく政策立案)だ。今回のイベントでは、緒に就いたばかりの地方自治体のEBPMの実態に着目、これを推し進めるためのさまざまな方策が提案された。

地方自治体が目指すべきEBPM

2018年4月に内閣府が発表した「内閣府本府EBPM取組方針」では、EBPMを「政策の企画立案をその場限りのエピソードに頼るのではなく、政策目的を明確化したうえで政策効果の測定に重要な関連を持つ情報やデータ(エビデンス)に基づくものとすること」と定義している。今回のフェアでウイングアーク1stは、「地方自治体が目指すEBPMの推進」というプレゼンテーションを行い、EBPMに対して明確なアプローチを参加者に示した。

冒頭登壇した首都大学東京 ソーシャルビッグデータ研究センター長 石川 博教授は、EBPMに活用できるデータが目の前に存在すること、また、データによって事前に需要や必要度を定量的・定性的に把握し、行政が行う施策の効果を高めることができるとしている。

時々刻々と生み出されるソーシャルビッグデータの活用例として石川教授は、防災(危険な避難路の見える化)、観光(インバウンドの行動追跡)、科学(JAXAとの共同研究による月面探査)などを挙げた。

EBPMに欠かせないビジネスインテリジェンス

続いて登壇したウイングアーク1st技術本部プロダクト戦略室 副室長 兼 エバンジェリストの大畠幸男は、一般事業会社の経営や会計では活用が進んでいるビジネスインテリジェンス(BI)の手法を改めて紹介。データを収集・蓄積・分析することで、現状を把握する(見える化)のに役立つBIツールが、地方自治体のEBPM実践にとっても欠かせないものであること、「たぶん」「おそらく」を排した判断や行動ができることを示した。

次に大畠は、EBPMの最前線として、地方自治体が公開するデータを利用した具体的な活用事例を二つ紹介した。取り組みの必要性は認識していながら、アプローチの仕方が見出せない参加者に、ロールモデルを示した。

各地で始まる事例

1例目として紹介された事例は千葉県浦安市だ。同市はオフィシャルサイトで1986年からの人口推移を、エクセルで提供している。大畠も同市市民だが、11年3月に東日本大震災を体験。市のいたるところで液状化が発生するなど大きな被害を受けるなどしたため、震災後、人口は減り続けているのではないかと危惧していたという。ところが、市が提供するデータをBIツールによってグラフを作成してみると、震災後一度は減った人口が、ここ数年増えてきていることを知り、「減っているのではないか」というのが自らの思いこみや勘でしかなかったと、卑近な例でデータに基づく判断の重要性を述べた。

続いて紹介されたのは、オープンデータの公開、住民による積極的な活用の推進に取り組む東京都品川区の事例だ。品川区では、避難所や広域避難場所やごみ収集日、男女・年齢別人口、フリーWi-Fiの設置場所など80以上のデータを、区民はもとより、生活の質を向上させるアプリの制作に取り組む事業者や団体に向けて公開している。

デモンストレーションで着目したのは、区内の運河を挟んで隣り合った二つの町の人口構成の違いだ。ただ人数が異なるだけではなく、一方は高齢者が多く、他方は子育て世代など、比較的若い住民が多い。それが、品川区の提供するオープンデータを読み込んだBIツールによってはっきりとグラフで示された。

隣接するエリアでこれだけの違いがあることが分かると、例えば災害時の行動計画や、保育所、幼稚園など建設計画、定住に向けての優遇施策など、行政のプラン立案のあらゆる局面に関わってくる。EBPMはまさに「データドリブン行政」と言い換えることができる。これを区が公開することにも大きな意味がある。有効な手立てを持つ企業や団体の力を活用しやすくなり、より区政が効率的かつスピード化する可能性を秘めているからだ。

データドリブン行政で予測される事態に備える

まとめとして大畠は、各自治体には利用価値の高いデータがたくさん眠っていること、それを見える化して分析することによって、EBPMが目指す「根拠に基づく政策立案」および実行ができるとし、その際にデータをグラフィカルに示し、比較・分析を容易にするBIツールは欠かせない存在であることを改めて示した。

ダウンロード

セッションの資料は以下よりダウンロード可能です。

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