「地方自治情報化推進フェア2018」イベントレポート③

AI-OCR「SPA」活用で紙書類をデータ化。業務が劇的に改善

去る10月23日(火)、24日(水)の両日、東京ビッグサイトで「地方自治情報化推進フェア2018」が開催された。会場には、全国各地から地方行政に関わる組織や団体が、情報収集や課題解決のヒントを求めに訪れ、会場は活気にあふれていた。今、多くの自治体では、デジタル社会を見据えたデータ活用に注目し、各地で取り組みが始まっている。業務効率向上や省力化、新しい価値の創出、利用者へのより良いサービスの提供など目的はさまざまだが、これらを実現するためのアプローチの一つが自治体の文書の多くを占める紙書類のデジタル化である。ウイングアーク1stのプレゼンテーションでは、AI-OCRによる紙のデジタル化と文書管理の統合ツール「SPA」を紹介、会場には入りきれないほどの来場者が詰めかけ、関心の大きさを物語った。

紙書類保管で大きな損失の可能性

「紙書類のデータ化と自動保管はここまで進化」と題したプレゼンテーションを行ったウイングアーク1st 技術本部 SVF・SPA統括部 統括部長の名護屋豊は、冒頭で、業務プロセスで発生する文書のうち、いまだに8割が紙書類である現状を紹介、その大量の紙書類を保管しておくだけで年間600万円以上の経費が掛かっているとした(職員一人当たりが管理する紙資料をキャビネット3台分と想定、その面積分の賃料を66,000円、対象職員を100人として試算)。さらにその紙資料から求める資料を探すコストは年間4,800万円にも上るという衝撃的な試算も示された(時給2,000円×年間検索時間6週間×対象職員100人で試算)。人手不足、経費削減の流れの中、見過ごせない数字として印象付けた。

このような紙文書の電子化は政府にとっても重要なテーマであり、2017年には書類の統一や電子化により「20年に行政コスト2割減」の方針が表明され、それに向けた具体的な取り組みも始まっている。

ただ、現在進んでいるのは電子決裁システムの導入による文書の削減が主であり、これまで蓄積された紙書類のデジタル化は進んでいない。そこには「膨大な量の紙書類のデジタル化は物理的な場所の圧縮にはなるものの、これまでの文書管理ツールでは記載内容の検索など高度な活用ができず、コストに見合うメリットが見いだせない」との自治体の思いがある。名護屋は、AI-OCRを活用した文書管理ツール「SPA」は、自治体が持つこれらの課題の解決につながると指摘する。

SPAは、アンケートのチェックボックスなどを含む手書き文字まで認識可能な高度なOCR機能と、それを自動で分類・管理できる機能をオールインワンで提供するツールであり、ユーザーはGUIによる直感的な操作が可能となっている。また同社のダッシュボードMotionBoardとの連携により、SPAで処理したデータをリアルタイムで可視化することもできる。

EBPMに欠かせないビジネスインテリジェンス

続いて登壇したウイングアーク1st技術本部プロダクト戦略室 副室長 兼 エバンジェリストの大畠幸男は、一般事業会社の経営や会計では活用が進んでいるビジネスインテリジェンス(BI)の手法を改めて紹介。データを収集・蓄積・分析することで、現状を把握する(見える化)のに役立つBIツールが、地方自治体のEBPM実践にとっても欠かせないものであること、「たぶん」「おそらく」を排した判断や行動ができることを示した。

次に大畠は、EBPMの最前線として、地方自治体が公開するデータを利用した具体的な活用事例を二つ紹介した。取り組みの必要性は認識していながら、アプローチの仕方が見出せない参加者に、ロールモデルを示した。

進化したOCRときめ細かな機能が業務をフォロー

実際の利用シーンでは、行政のキャビネットに所蔵されている紙書類はもとより、電子化されたPDFファイルなどをSPAで処理、OCRで事前に設定した通りにデータを抽出し、自動仕分け機能によりフォルダに振り分けることができる。またSPAは、実際の使用で求められる下記のような機能も備えており、行政での書類のデータ化と活用に大きく貢献できると説明する。

・3種類のOCRエンジンで手書き文字、アンケートの丸囲みまで読み取り可能
・高度なセキュリティで内部統制に対応
・書類の暗号化、すかし設定可能
・外部に配布する際などに、個人情報を含む項目をマスキング(墨消し)
・斜めに読み込まれたFAX文書、縦横が逆の文書が混在しても自動補正で読み取り
・文書定義の設定はGUIで直感的に操作可能。特別なスキルは要らず短時間で設定完了
・OCR結果の確認・修正が可能。また、誤認識はAIが修正・学習
・文書のライフサイクルを管理、保管期限の設定で自動削除
・タブレット対応

事例で見えてきた驚異的な業務効率の向上

次にプレゼンテーションでは、多彩な検索機能を紹介。全ファイルから該当するデータがどれほど含まれているかなどを大まかに調べる時に便利な「全文検索」、例えば特定の年に生まれた男性だけを抽出するなどあちこちに散らばった特定の項目について調べる「フィールド検索」、属性の異なった住民の中から項目を組み合わせ、求める属性を特定する「明細検索」、また、あらかじめ文書に付けておいた付箋情報(原本があった支所名など)で検索できる「付箋検索」などが示された。

名護屋は次に事例を紹介し、より実践的な活用シーンを喚起した。最初に紹介されたのは、SPAとMotion Boardを活用した契約書の電子化事例。これまでは窓口担当者が特定の顧客の契約書を確認する際、法務部に閲覧を依頼、法務部は書類が保管されている倉庫業者に連絡し、該当する契約書が入っている箱を取り寄せてピックアップ、営業担当者に連絡する。ここまでの行程は1サイクルで1週間はかかると説明。それがSPAとMotion Boardの連携で、権限を付与されたユーザーならだれでも任意のタイミングでデータにアクセスして検索、窓口担当者は一瞬で業務を完了できるとした。これによって法務、窓口双方の業務効率が大幅に向上する。

二つ目の事例は、開示請求のあった公文書の提供事例だ。請求された文書が紙書類で保管されている場合、職員が請求のあった文書を探すのに多くの時間と手間を要していた。また、文書の一部に公開できないページがある場合はそのシートを取り除いたり、公開できない項目があれば一度コピーして墨消しを行った上で再度コピーして開示したりするなど、大きな手間が必要だった。これをSPAで読み取り仕分けしておくことで、職員は検索するだけですぐに書類を見つけることができる上、墨消し機能で簡単に開示すべき情報だけ開示することができる。

また事例とは別に印象的だったのは、これまで例えば公共サービスの使い勝手に関するアンケートを実施した場合、収集した手書きの書類を職員またはアルバイトなどがシステムに転記する作業があった。膨大な時間がかかるのはもちろん入力ミスも生じていたが、SPAなら迅速にそれを読み取ってデータ化できるため、職員は業務効率向上やコア業務へのフォーカスが可能になるだけでなく、住民のサービス向上にもつながる。こうした例一つを取っても、SPAが自治体の現場にもたらす業務改革のインパクトは計り知れないものがある。

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