製造業における在庫管理とは
同じ在庫管理でも、非製造業と製造業において意味は異なります。この記事では、製造業における在庫管理について解説します。
在庫は企業の資産
在庫とは、まだ販売されていない商品や製品のことです。ただし、製造業は仕入れた材料を加工して製品化する工程があるため、材料や部品、製造途中のものも在庫として扱います。
製造業における在庫は加工状況に応じて原材料、仕掛品、半製品及び製品の3つにわけられます。
原材料は加工前、仕掛品は加工途中、加工が終了し販売できる状態のものが半製品及び製品です。
どの段階であっても、これから販売されて利益を生み出すもののことを在庫といいます。つまり、在庫は企業の資産ともいえます。
在庫管理の定義
JIS(日本工業規格)では、在庫管理を「必要な資材を、必要なときに、必要な量を、必要な場所へ供給できるように、各種品目の在庫を好ましい水準に維持するための諸活動。」と定義しています。
(引用:生産管理用語|日本工業規格)
在庫はこれから利益を生み出すもののことであり、在庫の管理は資産の管理と同義です。
機会損失を起こさないように各部門に不足がないように部品や材料を供給しつつ、無駄がないように適正な量を維持しなければなりません。
製造業の場合は管理すべき在庫が部門や工程によって各所散らばっているような状況が多く、ほかの業種よりも在庫管理は複雑になりがちです。
在庫管理の目的と重要性
在庫管理を適切に行うことは企業に利益をもたらします。
在庫管理の目的について、資産、コスト、顧客満足度の3つの観点から解説します。
資産としての在庫管理
在庫は企業にとっての資産です。
つまり、在庫の増強は企業における投資ともいえる部分です。
企業がキャッシュフローをよくするためには、まず現状のお金の流れや負債の状況を把握しなければなりません。
どの程度投資を行い、どのくらい回収できるのかを把握するためにも、在庫管理は必要です。
コストとしての在庫管理
在庫は資産ですが、あればあるほどよいというわけではありません。
在庫を保管するためには、人件費、光熱費、保管スペース、輸送コストなど多くのコストがかかります。
経年劣化し使えなくなってしまった在庫は廃棄処分もしなければなりません。
過剰な在庫は無駄なコストと同義であるため、コスト削減のためには適切な在庫管理を行いましょう。
顧客満足度につなげる在庫管理
納期までに必要な製品を作成するためには、在庫が十分になければなりません。
納期の厳守は取引先との信頼を守るために必要不可欠です。注文に対して安定した生産や出荷スピードを保つことは、納期対応力が高いといえます。
在庫管理を適切に行えば、需要に応えられるだけの在庫状況にすることができ、なおかつ製品の品質も安定させられるでしょう。
製造業における在庫管理の流れ
製造業において、適切な在庫管理をするためには以下のような流れで行いましょう。
1.適正在庫数を決める
まずは、在庫をどのくらい用意すべきか適正在庫数を決定します。
適正在庫数とは、需要に応じられる最低限の在庫数です。適正在庫数を設定するためには、従業員の経験による主観的な判断ではなく、客観的な分析が必要です。
在庫の回転率や利益率、在庫滞留分析などを行い、適正在庫数を決めましょう。
2.在庫の可視化と共有
在庫数がどのように動くのか、アイテム別にグラフ化するなどのように可視化すると在庫管理がしやすくなります。
品目ごとの在庫状況を把握しつつ、それぞれの状況や在庫の流れを可視化し、複数部門で共有しましょう。
そうしておけば、部門ごとの在庫管理ではなく、全体的な在庫管理が適切にできるようになります。
3.在庫数の維持
適正在庫数を決め、在庫状況を可視化し共有できたら、適正在庫数を維持できるように在庫を供給するようにします。
在庫数を適正に維持するためには、調達部門、生産部門、販売部門など部門間の在庫に対する共通認識をもたなければなりません。
どの程度需要があるのか適切に分析し予測を立て、在庫数の適正化をはかりましょう。
在庫管理の課題
在庫管理は製造業にとって必要なものですが、簡単に行えるものではなく、さまざまな課題があります。どのような課題かあるか解説します。
在庫に対する部門間の認識のズレ
経営層は原価分析を行うため、どうしても在庫の数は絞りたいと考えます。
一方、現場では在庫が足りなくなることをおそれ、各部門で在庫を多めに見積もりがちです。
このように、適正在庫の定義や発注点、需要予測で全社共通の認識をもつことは難しいでしょう。しかし、過剰在庫はキャッシュフローの悪化につながるため「足りなければよい」、というわけにもいきません。
部門間の管理手法のばらつき
製造業のなかには、在庫管理に関して全社共通のルールがなく、それぞれの部門で評価指標が異なるところもあるでしょう。
結果として情報の複雑化が起こり、在庫管理の一元化はしにくくなります。
部門間でそれぞれ在庫管理を行うと、分析のためのデータ不足につながるおそれもあります。
作業量過多による人件費の高騰とミスの増加
在庫管理をエクセルや紙ベースの在庫台帳によって行っている企業の場合、適切な在庫管理を行おうとすると作業量は膨大になります。
また、人の手でデータの入力や分析を行うと、どうしても入力ミスや目視確認のミスも起こるでしょう。
在庫の品目が増えれば、在庫管理のための人員を確保しなければならず、人件費高騰も起こりえます。
在庫管理を効率化する方法
在庫管理が複雑な製造業において、どのように在庫管理を効率化すべきでしょうか。
明確なルール設定と徹底
各部門それぞれのルールで在庫管理を行うと、在庫の無駄や情報の複雑化が起こります。
在庫の無駄を省き、適切な在庫を維持するためには、全社共通のルールを設定しましょう。
在庫管理するロケーション、棚卸しやデータ入力のタイミング、発注点の見直しなどを行います。置く場所、置くもの、置く量を定める3定を意識し、在庫のムダや紛失を防ぎましょう。
データ管理方法の見直し
在庫に関するデータ管理の方法を見直せば、部門間で在庫管理を共有化するための仕組みもつくれます。また、ミスにつながる原因の一つでもある二重入力も防げます。
まずはバーコードの導入などで、できる範囲から自動化しましょう。
在庫管理状況を可視化するためのダッシュボードを導入すれば、共通認識を醸成できるため、在庫管理システムの活用もおすすめです。
エクセル管理の問題点
エクセルはセルの数に制限があるため、それを超えるデータ量を保存するためにはシートを分けなければなりません。
項目等を自分で自由に設定できるため、各自余分な要素を入れがちで、作った本人しか使いこなせなくなる可能性もあります。
また、オフラインで情報更新をすればリアルタイムで更新できない、データが消える、といったリスクもゼロではありません。
在庫管理システムとは
在庫管理を効率的に行うためには在庫管理システムがおすすめです。
在庫管理システムとは、在庫の現況や出入庫情報を入力し、在庫の把握や管理をするためのシステムです。リアルタイムでデータを更新し、全部門で共有もできます。
また、システム化することにより、倉庫管理システム、生産管理システム、販売管理システムと連携もできるため、社内全体でデータの分析が可能です。
在庫管理システムを導入するメリット
在庫管理システムを導入すると、以下のようなメリットを得られます。
コストの軽減
在庫管理システムを導入すれば、人の手によるデータ入力や、人の手による棚卸し業務を減らせます。
結果的に手作業が減り、人的ミスも減少するため、ミスによるコストを防げるでしょう。
また、手作業を減らすことにより、人件費管理コストも軽減します。各種コストを減らすことができればおのずと企業の売上アップにつながるため、大きなメリットといえるでしょう。
余剰在庫の削減
在庫に関するデータを細分化し、適正在庫を管理すれば、常に在庫を適正に保ちやすくなります。
余分な在庫があると、在庫を保管しておくスペース、余剰在庫分の仕入れコストが必要になるほか、経年劣化による不良在庫の発生にもつながります。
ロケーション管理の負担も増えるため、在庫システムを導入することで余剰在庫を削減するとよいでしょう。
販売機会を逃さない
在庫管理システムは、需要予測の分析も行えます。従業員の感覚ではなく、データから客観的に分析ができるため、比較的正しい販売予測を計画可能です。
需要の変化による在庫の激減があったとしてもすぐに気がつけるため、欠品を防ぎ販売期間を逃さなくなります。売り逃しを防ぎ、売上アップにつなげられるでしょう。
在庫管理システムを導入するデメリット
在庫管理が複雑な製造業にとって、在庫管理システムの導入はメリットが多いですが、デメリットもあります。
導入コストの発生
あらたに在庫管理システムを導入する場合、導入前の社内インフラの整備や、在庫管理システムの購入などの導入コストがかかります。
また、導入後も機器のメンテナンスや運営のための人材を確保するなど、運営コストをかけることも必要です。
ただし、在庫管理システムを導入すれば在庫管理のためのコストは削減できるため、費用対効果は得られるでしょう。
全社への教育と浸透が必要
在庫管理システムに限ったことではありませんが、新しいシステムを導入するときには、全社での教育をしなければなりません。
マニュアルを作成したうえで、研修を実施するなど、導入前には社内の作業量は一時的に増えるでしょう。
そこまで準備して導入しても、すぐに浸透するとは限らないため、現場からの問い合わせ窓口の設置も必要です。
前提とする仕組みづくりは必須
在庫管理システムを導入すれば、在庫管理における課題がすべて解決するわけではありません。
在庫管理を成功させる前提として、整理・整頓・清掃・清潔の4sは整備しなければならないでしょう。
生産、加工、販売のすべてのプロセスで、在庫管理がどのように位置づけるのか、再認識することも必要です。
在庫管理システムの種類
ひとことに在庫管理システムといっても、その内容は業種によっても異なります。ここでは、在庫管理システムにはどのような種類があるのか紹介します。
倉庫管理機能が充実しているタイプ
製造業や物流業が在庫管理システムを導入するならば、倉庫管理機能が充実しているタイプがおすすめです。
こういったタイプは、販売できる状態ではない、材料や仕掛品の在庫管理もできるようになっています。
大規模な製造業で倉庫が巨大である場合は、物流ロボットと連携できる在庫管理システムを選ぶとよいでしょう。また、現場に外国籍の人が多い企業では多言語対応タイプが必要になります。
ECサイト・通販向きのタイプ
ECサイトなどの販売業は、状況がすぐに変化するためリアルタイムに情報を更新できる機能が必要です。
また、在庫数が設定以下になるとアラート通知される機能があると、在庫切れも防げます。
回転が早い在庫を扱う企業はECサイト向きの在庫管理システムが便利です。
備品管理機能もあるタイプ
同時に社内で使用する備品など、商品以外の管理ができるタイプもあります。
社内に厳重管理したい備品がある企業は、備品管理機能があるタイプを選びましょう。
小規模な企業向けのタイプ
企業の規模によっても選ぶべき在庫管理システムのタイプは異なります。
小規模な企業で、在庫の数も少なく、管理体制も複雑でないならば、最低限の機能があり導入コストをおさえられるような在庫管理システムがおすすめです。
事業拡大に応じてプラン変更ができると安心でしょう。
製造業の在庫管理システムの選び方
在庫管理システムにはさまざまなタイプがあります。そこで、製造業における在庫管理システムの選び方を解説します。
自社の課題解決につながる機能があるか
在庫管理システムは機能が多ければ多いほどよいわけではありません。
機能が多いほどシステムの料金は上がりがちで、必要ない機能をもつシステムを導入すると無駄になります。
たとえば、バーコードを使用するシステムならば印字機器の導入が必要です。バーコード機能が必要ない企業にとって、印字機器は無駄になるでしょう。
また、スマートフォン、タブレット、ハンディターミナルなどのツールの導入が必要になるツールもあるため、本当に必要か再度確認してください。
自社の課題を洗い出し、それに適した機能があるかどうかで在庫管理システムを選びましょう。
課題別の機能例
企業の課題によって必要な機能の一例を紹介します。
課題 | 必要な機能 |
---|---|
適正在庫の維持 | リアルタイム共有 |
在庫の品目が多い | バーコード・ハンディ活用 |
先入れ先出し管理を行いたい | ロット管理 |
スムーズなピッキング | ロケーション管理 |
外国人の従業員が多い | 多言語対応 |
システムの提供タイプを検討する
在庫管理システムは、ネットワーク上にあるソフトウェアを利用するクラウド型、自社にサーバーを設置して導入するオンプレミス型の2種類があります。
在庫管理システムはクラウド型のものが多いでしょう。クラウド型はベンダーが提供するソフトウェアをそのまま使用できるため、初期にかかる導入コストは抑えられます。
ただし、セキュリティ管理もベンダー側が行うため、セキュリティ対策がしっかりとされているものを選ぶことが重要です。
オンプレミス型は導入コストがかかりますが、パッケージタイプが多いため運用費用は抑えられます。
自社内の既存システムとの連携性はあるか
自社内ですでに導入しているシステムと連携できるかどうかも、在庫管理システムを選ぶときに重要なポイントです。
在庫管理システムは、生産管理システム、販売管理システムと連携できるとより便利になります。
こういったシステムと同時に導入する必要があるかも確認したほうがよいでしょう。
普段使い慣れているエクセルと連携できるシステムもおすすめです。
まずは在庫を可視化できるダッシュボードの活用がおすすめ
在庫管理システムは在庫状況を確認し管理するためのものですが、在庫管理においてはまず在庫そのものの状況を可視化することが重要です。
在庫を可視化するためのダッシュボードを活用すると、在庫管理システムの導入よりも簡単に在庫の見える化を実現することができます。
ウイングアーク1st株式会社ではこれまでのノウハウを凝縮しテンプレート化した「在庫適正化ソリューション」を提供しています。
在庫適正化ソリューションでは、数千~数万点ある品目から在庫の滞留状況を色分けし、要注意品目を特定、入出庫の動きと今後の予定を可視化することで、品目ごとの適正な在庫量を把握し、現場の生産を維持しながら収益性を向上させるためのアクションへつなげることができます。
在庫を可視化することで、課題がより明確になるという大きなメリットがあります。
まとめ
今回は、製造業における在庫管理の重要性や今後の課題、効率的に在庫管理をする上で役立つ在庫管理システムについてご紹介しました。
在庫を有する企業にとって在庫管理は欠かせません。とくに、製造業の場合は在庫管理が複雑になるため、自社の課題を解決するような機能をもつ在庫管理システムを選ぶことも必要です。
在庫管理に課題を感じている企業は、今回ご紹介した在庫を可視化できるダッシュボードの活用などを検討してみてはいかがでしょうか。
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