「地方自治情報化推進フェア2019」イベントレポート②

行政サービスの高度化や地域の課題解決のためのICT活用を推進する「地方自治情報化推進フェア2019」が、2019年10月10日(木)・11日(金)に東京ビッグサイト青海展示棟Bホールで開かれた。ウイングアーク1stは同イベントに出展。官民データ活用推進基本法及び「デジタル・ガバメント推進方針」に沿った変化が求められる行政に向け、ソリューションの展示やセッションを行った。

第二回となるこの記事では10日(木)の13:30~14:15にF会場で行われた埼玉県春日部市のセッションをレポート。定住促進というテーマに対し春日部市はMotionBoardを用いてどう対処したのか、そこからどのような気づきを得たのか。それらを知ることでデータ活用の第一歩を踏み出したりサポートしたりする際の助けとしていただきたい。

春日部市はいかにデータ活用に至ったか

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本セッションの登壇者は「かすかべ未来研究所」の平野紫穂主任と星野美琴主事のお二人。かすかべ未来研究所は、調査研究・支援・人材開発の3つの機能を持つ春日部市の庁内シンクタンクだ。
セッションの冒頭ではかすかべ未来研究所の研究テーマや議会の反応について簡単な紹介がなされた。

(右写真:かすかべ未来研究所 平野紫穂主任)

 

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春日部市におけるデータ活用が最初に検討されたのは2016年のこと。かすかべ未来研究所の研究事業「統計データ等の有効な管理・活用方法の研究」においてデータの「見える化」や統計データの活用支援が提案されたのだという。
2017年にはかすかべ未来研究所も所属する春日部市総合政策部政策課内に「定住促進担当」が新設されることが決定。転入促進・転出抑制に取り組んでいくため、データ活用を進める方針が固められた。そして調達仕様書の作成や情報制作部門への協力依頼を経て2019年3月にデータ分析ツールMotionBoardが導入される運びとなった。

(左写真:かすかべ未来研究所 星野美琴主事)

データ活用で得た気づきとは?

春日部市のデータ活用においてデータ分析ツールは具体的にどのように用いられたのだろうか?
ツールを用いたのは、主にデータ活用の一般的な流れ「収集→集計・分析→レポーティング→判断/行動」のうち「集計・分析」「レポーティング」のパートだと平野主任。集計・分析はデータを適切な視点でまとめ事実を把握すること、レポーティングは知り得た事実を他者に伝わりやすい形に加工することだ。

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会場は満席、データ活用への関心の高さが伺われる

MotionBoardはさまざまなデータをグラフや地図など見やすい形で表現し、一画面で比較可能にするBIツール。春日部市では、例えば地区・年齢別の転出推移をグラフ化。2017年10月~2018年9月までは転出超過にあったこと、2018年10月から回復傾向にあることを突き止め、細かく項目を入れ替えながら原因究明に努めた。また、県内近隣地域の年齢別の人口増加率、高齢化率を地図上に表現。市内を走る東武スカイツリーライン沿線の他地区を含めた状況を実態として捉えることにより、「どのエリアはどれだけ人口が増加しているか」「市内と比較してどのような傾向か」などの気づきが得られたという。そのほかにも、春日部市の転入元・転出先の地区別、年齢別の全国動態マップや、居住意向・愛着度・定着率の相関を測る事例の紹介がなされた。

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セッションでは実際のデータ画面も提示された

MortionBoardを導入することで多様な形式でデータを集計・分析・レポーティングできるようになり、俯瞰的な視点で事実をとらえやすくなった。その結果、「仮説を立てるスピードが圧倒的に"速く"なった」と平野主任・星野主事。さらに、仮説検証のフェーズでも、"起こっている事象"と"想定根拠"の比較が可能なMotionBoardの機能が分析に貢献したという。

活動を通して見つけた2つの課題

春日部市のお二人がデータ活用を進めた半年間で見つけた課題は2つ。一つは「データが分析できる形で保有されていないこと」、もう一つは「そもそも分析したいデータ項目がないこと」。
紙データや一部のExcelデータは集計・分析の前にデータ化・加工の工程を経なければならない。またデータ項目の設定に失敗すると、分析に使えるデータが存在しないという事態も起こり得る。例えば転入者のアンケートで「住宅事情の良さが春日部市を選んだ理由の一つ」という結果を得られても、どの地区の住宅事情か分からなければデータとしては不十分なのだ。
重要なのは「保有すべきデータは何か?」という視点を持つことだと平野主任。その視点を基にデータの集計・精査を行うことで本当に必要な情報を集めることができるという。

職員に広がった"気づきの伝播"

データ活用によって得られた効果の一つとしてお二人が挙げたのが「気づきの伝播」。以前はデータ活用への協力を依頼すると「仕事が増えそう」などと難色を示していた職員も、データ活用が進むにつれ積極的に協力してくれるようになったという。その背景にはデータから気づきを得ることで「データは有用だ」という"気づきの気づきを得られた"という体験があるとのこと。
このような意識の変革を連鎖させていき、最終的には全庁的なデータ活用行政を実現することが目標だと星野主事。そのために現在「こんなデータがあるんだけど」とほかの部署から声をかけられる環境づくりに邁進しているそうだ。

 

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