
“救える命”を一人でも多く救うためにファンドレイジングは最重要ミッション
国境なき医師団(Médecins Sans Frontières=MSF)は、中立・独立・公平な立場で医療・人道援助活動を行う民間・非営利の国際団体だ。紛争や自然災害、貧困などの理由から保健医療サービスを受けられない人々を対象に、緊急性の高い医療ニーズに応えることを主な活動内容とする。現在、世界各地に28の事務局が設置され、医師や看護師をはじめとする3万8,000人以上の海外派遣スタッフや現地スタッフが、約60の国と地域で活動している(2014年度)。
日本事務局が発足したのは1992年。2014年実績では87人のスタッフを派遣し、派遣回数は累計で126回、23の国と地域に及ぶ。
もちろん、スタッフを派遣することだけが事務局の仕事ではない。国境なき医師団の活動原資のほとんどが民間からの寄付で成り立っており、事務局にとってファンドレイジング(資金調達)は最重要ミッションの一つとなっている。多様な援助プログラムに当てられる通常の寄付募集のほか、2014年から西アフリカで流行しているエボラ出血熱への緊急対応のように、使途を指定して寄付を募るケースもある。「このいずれのケースでも、活動のニーズに基づいた予算設定と寄付募集が大原則」と語るのは、国境なき医師団日本ファンドレイジング部ディレクターの吉田幸治氏だ。
「援助プログラムを直接運営するオペレーション事務局が、世界各地のニーズに基づいて年間のアクションプランを立案し、活動に必要な資金の総額を算定します。これを各国事務局間で調整し、それぞれの調達目標額を決定するのです。コミットした金額を達成できなかった場合、“救える命”を救えなくなる事態も起こりうるだけに、事務局の責任は極めて重大です。また、特に使途を指定した寄付については、必要以上の金額を集め過ぎることもしていません」
非営利団体であっても国境なき医師団の活動には、一般の企業活動に勝るとも劣らないマーケティングや予実管理が求められているのだ。
必要なデータを詳細にモニタリングするためBIによる課題解決を検討
「コミットした予算を着実に達成するためには、集まった寄付の進捗状況やかかった経費を毎日しっかり数字で把握し、その時々で必要とされるアクションを迅速に実施していくことが大切です」と吉田氏は強調する。
しかし、以前の国境なき医師団日本は、的確な意思決定を行う上で必要となるデータを詳細にモニタリングするための仕組みを持っていなかった。アドホックなデータ分析を行うためには、基幹システムのデータベースからその都度データを抽出し、Excelのピボットテーブルに手作業でコピー&ペーストして展開するといった、 煩雑な手間と時間を必要としていた。
「毎朝、この作業に追われていました」と吉田氏。また、マーケティングや資金調達を担当する多くの職員から依頼を受け、個別のレポート作成に対応している財務/IT部データベース・アドミニストレーターである越清美氏も、「レポート1件あたり3~7日の時間が必要で、年間の作成本数は60本以上に達していました」と振り返る。
こうした非効率なデータ活用を大きく改善する契機となったのが、2012年の「Dr.Sum EA」との出会いである。「BI(ビジネスインテリジェンス)による課題解決を検討する中で出かけたイベントでDr.Sum EAのことを知り、とても大きな興味を持ちました。そうしたところにウイングアークから、『Dr.Sum EAなどの製品および保守サービスを、プロボノ(様々な分野の専門家が、その知識や経験を活かして行う社会貢献)の形で無償提供します』という提案をいただいたのです」と吉田氏は語る。
担当者自身によるデータ活用・分析を実現し、個別レポート作成の作業負荷を1/5以下に軽減
こうしてBIコンサルティングサービス(有償)とともに導入されたDr.Sum EAは、約2年間をかけて実施してきた基幹システムとの接続環境の整備、基本的なビューの設計、トレーニング、ITリテラシーの高いパワーユーザーへの先行提供よるブラッシュアップなどを経て、2014年9月に日本事務局全体での利用を開始した。
現在、Dr.Sum EAのデータマートには、基幹システムから主要データが日次の夜間バッチで転送・蓄積されている。これにより、エンドユーザー自身がWebインターフェイス上のビューからドリルダウンやドリルスルーなどの操作を行い、最新データをアドホックに集計・分析することが可能となった。
「予算の進捗状況を日々把握するほか、実施したキャンペーンごとに特定の期間を絞り込んだ寄付の集まり状況、寄付者の人数やメルマガ登録者の離脱率など、多岐にわたるデータ分析を行うことが可能となりました。例えば、2014年のエボラ出血熱に対応した使途指定の寄付募集でも、Dr.Sum EAによる日々の入金チェックは欠かせませんでした。また、クレジットカードなどの申し込みベースでの集計に基づき、今後の入金を簡単かつ正確に予測できるようになったのも大きな成果です」と吉田氏は語る。
さらに越氏も、「エンドユーザー自身によるフレキシブルなデータ分析のスキルがある程度身についてきたことで、個別のレポート作成の依頼件数は1/5以下に削減されました」と、画期的な業務効率化の効果を挙げる。
数値とテキストを組み合わせたハイブリッドなデータ分析の強化を図る
2015年7月には、新たに「Dr.Sum EA Text OLAP」のプロボノ提供も受け、これまでの数値データにテキスト化された定性データを加えた、ハイブリッドなデータ分析のための環境を整えた。このTextOLAPについて、まずはWebや電話にて受け付けたフリーワードによる問い合わせの内容分析に活用していく考えだ。
「支援者対応の窓口では毎月約1,000~2,000件のお問い合わせを受けており、担当者は毎週行われる部内会議にあわせて目検で集計を行っています。約800件の問い合わせを手作業で集計するのに、2人日以上の工数が必要です。特定のキーワードがどれくらいの頻度で発生しているのかを自動集計できるようになるだけでも、担当者の業務効率化に貢献できると考えています。また、高頻出のキーワードや新出のキーワード、増加傾向などを分析することで、マーケティング活動にも活かしていけるのではないかと大きな可能性を感じています」と越氏は、今後の取り組みを見据えている。
「Dr.Sum EAは日常業務に不可欠のツールとなっており、今後もさらなるデータ活用・分析の高度化を目指します。ウイングアークのご支援には心より感謝するとともに、この関係がさらに多方面に広がり、深化していくことを期待しています」と吉田氏は語る。
国境なき医師団日本とウイングアークによる、BIをベースとした社会貢献活動の新たなスタイルは、着実に成果を上げながら大きく広がろうとしている。






