有限会社 協同ファーム
もっと豚に向き合いたい。IoTによる「養豚のスマート化」で
養豚ビジネスのあり方、従業員の働き方を変革
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その他
宮崎県で養豚事業を展開し、ブランドポーク「まるみ豚」を生産・販売する協同ファーム。同社では、2010年に家畜伝染病の口蹄疫が発生し大きな打撃を受けたのをバネとして、従来の養豚ビジネスを変革し「日本一クリーンな豚の生産体制をつくる」という目標を掲げ、IoT を活用した養豚のスマート化を推進している。
実証実験では、「給水量」「餌の供給量」「集糞・浄化槽の稼動状況」「温度・湿度・CO2」をMotionBoard Cloud でリアルタイムに可視化し、異常の際には従業員のスマートフォンにアラートが通知する仕組みを構築。養豚ビジネスの効率化、従業員の働き方変革への手応えをつかんだ。現在は、2018年5月の新豚舎完成に向け、センサー増設による精度向上や、他の設備の稼動状況把握、従業員の最適配置など、本格的なIoT活用に向けて着々と準備を進めている。
導入背景
豚舎内の各設備の老朽化が進み、水道管からの水漏れ、除糞装置のケーブルの切断、排水管の詰まりなどの故障やトラブルが日常的に起こっていた。従業員はそのたびに補修や後始末などの予定外の作業に追われる。しかも夜間は無人になるため、最悪の場合は半日近くも設備のトラブルが放置されたままになってしまうことがある。朝豚舎に行ってみると水道管が破裂してあたり一面が水浸しになり、子豚が震えていたこともあった。
- 課題
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- 日本一クリーンな生産体制を目指して養豚事業を再開
- IT を最大限に活用した養豚のスマート化を実践
- 解決策導入ポイント
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- 容易でスピーディなダッシュボード開発
- モバイルアプリを標準提供
- SORACOM FunnelのPartner Hosted Adapterとして対応
- 効果
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- 豚舎への給水量や集糞装置の稼働状況などをリアルタイムに可視化
- 給水量の変化から豚の活動パターンを把握するなど新たな発見を獲得
- 従業員の作業負担を軽減し、できた余力を本来の肥育業務にシフト
MotionBoard Cloudによって豚舎への給水量が可視化されたことで、異常発生時に迅速に対応することが可能となった。実際に水道管の水漏れを早期に発見することができ、すでに何度も助けられている。また、ダッシュボード上で給水量の変化を時系列で見ているうちに、豚の活動パターンが推測できるようになるなど、新たな気づきも生まれている。
日本一クリーンな豚の生産体制を目指し、IoTを活用した養豚のスマート化を目指す
尾鈴山の雄大な自然に囲まれた宮崎県川南町。協同ファームは、この地に湧く豊富な天然水を活用し、1968年に養豚事業を開始した。2009年には宮崎を代表するブランドポーク「まるみ豚」を誕生させ、一躍注目を浴びた。
だが、その矢先の2010年に宮崎県の畜産農家に大きな打撃を与える出来事が起こった。家畜伝染病である口蹄疫が発生し、協同ファームでも飼育していた豚を全頭殺処分せざるを得なくなってしまったのだ。
普通であれば、あまりのショックの大きさにすぐには立ち直れないところだろう。実際、畜産から撤退してしまった農家は少なくない。ところが協同ファームの2代目社長である日髙 義暢氏は、その苦難をあえてポジティブに受け止めた。
「地域全体の家畜をゼロにしたということは、慢性的に持っていた豚の病気を一掃しリセットできたことを意味します。日本一クリーンな生産体制のもとで養豚事業を再開できる、またとないチャンスだ、と考えることにしました」と語る。
そして、この「日本一クリーンな豚の生産体制をつくる」という目標は、時を置かずIoTのアプローチへと結びついていった。「日本はモノづくりやITなどの産業で高い技術力を持っていますが、実は養豚に関しては発展途上なのです。以前ドイツやデンマークの畜産を視察したところ、機械化と自動化がもたらす効率性の高さに驚きました。彼らヨーロッパの先進国に負けない高品質の豚肉を効率的に作るためには、IoTをはじめとするITの活用が欠かせないと痛感しました」と日髙氏は語る。
協同ファームでは現在、ITを最大限に活用した養豚のスマート化を実践する場となる豚舎の建て替えを進めている過程にある。その準備段階として1年前の2017年3月より、旧豚舎においてIoTの実証実験を進めてきた。
設備は“友だち”コミュニケーション指向のIoTシステムに
協同ファームにおける養豚は、どのような状況だったのだろうか。これまで各豚舎には、自動給水器や自動給餌器、スクレッパー方式の自動除糞装置などの設備が導入されていた。
一見すると効率化が進んでいるようにも思えるが、「従業員が一日の中で豚と向き合える時間は、ほんのわずかしかありませんでした」と日髙氏は打ち明ける。各設備の老朽化が進み、水道管からの水漏れ、除糞装置のケーブルの切断、排水管の詰まりなどの故障やトラブルが、日常的に起こっていたのが原因だ。従業員はそのたびに補修や後始末などの予定外の作業に追われる。しかも夜間は無人になるため、最悪の場合は半日近くも設備のトラブルが放置されたままになる。「朝豚舎に行ってみると水道管が破裂してあたり一面が水浸しになり、その横で子豚が震えていたこともありました」と日髙氏は振り返る。
この課題を解決するために目を付けたのが、先述のIoTのアプローチだ。そしてSIパートナーの株式会社システムフォレストとともにそのシステム構築に取り組むことを決断した。
「IoTに先行して、就業管理クラウドサービス『TeamSpirit』を2017年1月にシステムフォレスト経由で導入し、個々の従業員がいつ、どの豚舎で、どんな作業に、何時間くらい従事したのかをスマートフォンで可視化する仕組みを作りました。これと同じように『人間と機械(設備)があたかも“友だち”のように、スマートフォンを通じてコミュニケーションできるシステム』というコンセプトを描き、引き続きシステムフォレストにIoTのシステム構築をお願いしました」と日髙氏は語る。
IoTを可視化するダッシュボードを効率的に作成できるMotionBoard Cloud
協同ファームがIoTの実証実験を進めるにあたり、各豚舎の要所にセンサーを配備してモニタリングすることにしたのは、「給水量」「餌の供給量」「集糞・浄化槽の稼動状況」「温度・湿度・CO2」の大きく4種類のデータだ。
これらのデータはBluetoothなどでいったんゲートウェイに集められ、さらにソラコム社のクラウドアダプタサービスである「SORACOM Funnel」を経由してMotionBoard Cloudに集約され、ほぼリアルタイムに可視化される。さらにビジネス版LINEの「LINE WORKS」とも連携し、あらかじめ設定されたしきい値を超える異常が起きた際は、すぐに全従業員のスマートフォンにアラート通知が送信される。また、MotionBoard Cloudに集められたデータは毎日1回のサイクルでAWS(Amazon Web Services)のデータウェアハウスである「Amazon Redshift」に自動転送され、今後長期間の時間軸で行う分析に役立てるために蓄積される。
まさにMotionBoard CloudがこのIoTシステムの中核を担っているわけだが、そこにはどのようなツール選定の判断があったのだろうか。システムフォレスト側のプロジェクトメンバーとしてシステム設計を担当したIoTイノベーショングループのコンサルタントである松永 圭史氏は、このように語る。
「仕様面で何よりも大きかったのは、MotionBoard CloudがSORACOM Funnelに対応していたこと、モバイル専用アプリを標準で提供していたことの2点です。そして最大の決め手となったのは、ダッシュボードを作るのがとても楽だったことです。グラフやチャートを駆使した多彩なビジュアル表現が可能で、より多くのデータを取り込んでいった場合にも、アジャイル手法でサンプル画面を提示しながら、効率的にダッシュボードづくりを進めることができます」
さらにシステムフォレストの執行役員でありクラウドインテグレーション/マーケティング担当IoTイノベーショングループ統括の西村 誠氏も、「世の中にBIツールと呼ばれる製品は数多くありますが、お客様のニーズに応える可視化を実現するためには、スクラッチに近い作り込みを行わなければならないものもあります。その点、MotionBoard Cloudは自在なカスタマイズが可能でほとんど手間がかからず、『作らずに作る』を基本とする当社の開発スタイルに合致していました」と話す。
設備のメンテナンス負担を軽減することで多くの時間を豚と向き合う
協同ファームの現場でも、今回開発したIoTシステムの使い勝手は好評だ。「私たちにクラウドを利用しているという意識はあまりありません。豚舎内の設備とスマートフォンが直結しているかのような感覚で、ダッシュボードで状況を確認したりアラートを受け取ったりできるレスポンスの良さにとても満足しています」と日髙氏は語る。
また、MotionBoard Cloudによって各設備の稼働状況が可視化されたことは、現場の作業そのものを変えつつある。
例えば、給水量が可視化されたことで養豚場全体の水の流れを把握し、異常発生時に迅速に対応することが可能となった。「この機能のおかげで実際に水道管の水漏れを早期に発見することができ、すでに何度も助けられています。また、ダッシュボード上で給水量の変化を時系列で見ているうちに、一日の中での豚の活動パターンが推測できるようになるなど、新たな気づきも生まれています」(日髙氏)
集糞装置の稼働状況が可視化されたことも大きい。これまで気づかないうちにトラブルが起こって集糞装置が停止していた場合、その後の復旧処理や豚舎の清掃には大変な労力と時間を要していた。ダッシュボードで稼働状況を管理し、適切な管理を行うことで、豚舎内を常に清潔な状態に保つと同時に従業員の負担を軽減することができる。「きつい仕事と言われる畜産業の働き方改革を推進し、本来もっと多くの手をかけるべき豚の健康管理や体重管理などの肥育業務にシフトすることができます」(日髙氏)
また、温度・湿度・CO2を常に監視することで、こまめに換気量を調整し、豚に最適な環境を提供することが可能となった。こうした細心の注意を払った対応がより高品質な豚の生産を可能とし、ひいては収益の向上にもつながっていくのだ。
IoTの対象をさらに拡大スマートフォンを活用し従業員を効率的に配置
先述したように、協同ファームでは現在豚舎の建て替えを進め、2018年5月までに新豚舎の建設を終える予定となっている。これにあわせて、IoTの本格展開が始まることになる。
実証実験の成果を踏まえ、「給水量」「餌の供給量」「集糞・浄化槽の稼動状況」「温度・湿度・CO2」に関しては、より高精度なデータを収集すべくセンサーの数を増やす予定だ。
また、実証実験では対象外だった「飼料タンクの重量(残量)管理」のほか、「空調システム」「公害防止のための脱臭装置」「豚の糞尿から堆肥をつくる発酵装置」などの稼働管理についてもIoTをベースとしたスマート化を進めていく考えだ。
「飼料タンクの残量の確認は、これまで従業員がタンクに上って中を覗き込んで行っていました。IoTを活用することで、こうした危険を伴う作業を養豚の現場からなくしたいのです。
加えて飼料タンクの残量がより詳細かつ継続的にモニタリングできるようになれば、より適正なタイミングで発注をかけられるようになるなど、経営の合理化やコスト削減にもつながっていくと期待しています」と日髙氏は語る。
さらにその先で協同ファームが検討しているのが、従業員の位置情報の活用だ。作業中も常に持ち歩いているスマートフォンにMotionBoard CloudのIoT Agentを配布することで、広い養豚場内のどこで、だれが作業しているのかをダッシュボード上にリアルタイムに可視化できるようになる。こうして一人ひとりの従業員の安全を確保することに加え、就業管理クラウドサービスのTeamSpiritと連携させることで、従業員の配置転換をよりスピーディに行えるようになるなど作業効率の改善も図れるようになる。
「IoTには無限の可能性があります。今後は、可視化する対象をモノからヒトへとさらに拡大していきます」と日髙氏は意欲を示す。その取り組みの中から得られる新たな発見をもとに、養豚ビジネスのあり方や従業員の働き方をさらに進化させていく考えだ。
Company Profile
有限会社 協同ファーム
創業 :1968年1月 ※「日髙養豚場」として養豚事業開始
本社所在地 :宮崎県児湯郡川南町
事業内容 :約1万頭の豚を飼育する養豚事業を展開し、ブランドポーク「まるみ豚」を生産・販売。宮崎県畜産共進会のグランドチャンピオンを過去3度受賞するなど躍進を続けている。
URL :https://www.marumiton.com/
導入製品
MotionBoard Cloud
ビジネスのあらゆるデータを可視化するクラウド型BIダッシュボードサービス。データを必要なカタチで、シンプルに可視化します。