少子高齢化社会に立ち向かうため、グループ全社のデータ資産をフル活用したい
日本の少子高齢化は多くの産業界で課題として挙げられるが、とりわけ交通事業者にとっては沿線地域の活性が事業運営の大前提となるため、重要な経営課題となっている。電車・バス・タクシーなど交通事業を基幹としながら、沿線で不動産、レジャー・サービス、流通など幅広い事業を展開する京急グループも例外ではない。京浜急行電鉄株式会社(以下、京急電鉄)で新規事業の企画立案を担う新規事業企画室ではこの課題に立ち向かうため、グループ各社・社内各部署が持つデータ資産を横断的に利用し、マーケティング戦略や業務改革に活かすことを目指している。
多種多様な事業を展開していることもあり、これまではグループ各社・社内各部署がおのおのデータ分析をおこなっており、データ資産の共有化も進んでいなかったという。新規事業企画室で課長を務める藤峰裕子さんはこう話す。「グループ各社や社内各部署にヒアリングしたところ、データ分析は担当者それぞれがインターネットなどを駆使し手作業で膨大な時間をかけて行っていること、さらにその分析もほとんど連携されていないことがわかりました。その結果、たとえば沿線の少子高齢化の現状について、参照しているデータソースや分析粒度がそれぞれ微妙に異なっていたりする状況でした。非効率であっただけでなく、グループ横断で議論をしようとしたときには、まずお互い前提としているデータのすり合わせから、というようなシーンもありました」
そこで新規事業企画室では横断的なデータ活用を目指して、グループ各社や社内各部署で活用できそうなデータを集めたポータルサイトを立ち上げたり、GISツールを導入してグループ各社・社内各部署の分析業務を請け負ったりする取り組みをおこなった。これらの施策は一定の成果をあげ、少しずつ成功したという。「たとえばそれまでは利用されていなかった各駅の改札口時間帯別乗降者数や定期券の購入者の属性(性別・年代別)などのデータを膨大なデータから取りだして共有化したところ、駅の広告看板を扱うグループ会社から広告出稿のターゲティングの参考になると感謝されました」(藤峰さん)
とはいえ、ポータルサイトはExcel形式でしか掲載できなかったため可視化には弱く、オープンデータと保有データを組み合わせての分析もできなかった。また、GISを利用した分析業務の請負にも限界があった。新規事業企画室で課長補佐を務める奈良谷 公司さんはこう話す。「オーダーを受けてこちらで分析するのですが、自分たちがその業務を完全に把握しているわけではないので依頼者の意図を汲み取りきれず、スムーズに進められないことも多かったのです」
それなら業務を熟知している担当者が自分自身でストレスなくデータ抽出から分析まで自由自在におこなえるようにできないだろうか?また、各社内に埋もれてしまっている貴重なデータをグループ全社で自由に活用し、機会損失を防げないだろうか?そんな思いから、グループ横断のデータ活用基盤となるシステムを立ち上げるプロジェクトが始まった。
目指したのは、グループ全社の担当者が容易に使えるデータ分析基盤
グループ全体のデータ活用基盤を整備するにあたっては同社では、事業に携わっているグループ各社・社内各部署の担当者が直接利用してこそ最適な分析ができると考えた。そこでシステム構築において重視したのが、オフィスの場所やアクセス環境の異なるグループ全社からスムーズにアクセスできること。また、データアナリストのような専門性の高いスキルを持たなくても操作が可能なシステムを目指した。
上記をふまえた構想が、京急グループ統合データシステム 「KIDDS(Keikyu group Integrated Data Driven System)」。単なる商圏分析ツールに留まらず、京急グループに関するあらゆる情報を取り込む大きなフィールドとしての展開を目標に掲げた。
1社が提供する製品でデータ蓄積からレポーティングまでシームレスに実現
KIDDSを実現するシステムとして京急電鉄が採用したのが、ウイングアーク1stのクラウド製品。製品選定プロジェクトを主導した奈良谷さんはこう話す。「一番の決め手は、国内1社が提供するプロダクトですべての要件を満たせたことです。KIDDSは導入してからが本当の始まりなので、カスタマイズ性や拡張性を重視していました。複数社の製品を組み合わせた提案もありましたが、1社製品で統一することによるスケールメリットの高さを評価しました」
また、ウイングアーク1stの提供するBIダッシュボード「MotionBoard Cloud(以下、MotionBoard)」と、データ提供サービス「3rd Party Data Gallery(以下、3PDG)」が京急グループのマーケティング基盤として最適だったことも理由のひとつ。沿線地域に根ざす交通事業者としては、商圏分析をはじめとしたデータを地図上で分析するGIS機能が必須の要件であり、それを標準機能として備えるMotionBoardがニーズに合致した。
そして構想当初の目的でもあった、グループで利用するデータの統一にも3PDGが役立った。国勢調査や経済センサスといった、どのグループ会社でも利用頻度が高いデータや、中心事業であるリテールや不動産関連の情報など、KIDDSで利用する外部データを揃えるにあたって欲しいデータをまとめて調達しMotionBoardでの分析に最適な形式で利用できるのも大きなメリットだった。
もちろんMotionBoardでは蓄積した社内外のデータの可視化や分析、レポーティングにも活用が可能だ。同社ではこれまで、乗降車数や沿線地域の人口変動などをまとめた定期レポートを都度手作業で作成してきたが、こうしたレポーティング業務をMotionBoardでおこなうことで作業負荷の軽減も期待できる。さらにデータの可視化や分析に留まらず、その分析結果やレポートもシームレスに共有できることが導入の後押しとなった。
KIDDSはこれら3つのプロダクトの他に、全社が保有する大量のデータの蓄積とその高速集計を担うフロントデータベース「Dr. Sum」を含めたウイングアーク1stの4製品によって構築された。すべての製品間はシングルサインオンでシームレスに利用できる。
システムの構築を振り返って、奈良谷さんはこう話す。「わからないことも多く構築には苦労もありましたが、ウイングアーク1stの支援サービスと、構築を担当したNSD社の熱心なサポートのおかげで、専門家ではない自分でも使いやすいシステムができたと思います。」一緒にプロジェクトを推進した名児耶 綾さんもプロジェクトをこう振り返った。「今まで経験したことのないようなビックプロジェクトで大変でしたが、地図の見え方を工夫したり、利用できるデータもオープンデータ以外を充実させたりするなど、グループ各社・社内各部署の様々な業種の方に広く利用してもらえるよう気を配りました」

データドリブンマーケティングで目指す「グループ力を生かした攻めのエリア戦略」
新規事業企画室では今後、まずは立ち上がったKIDDSのグループ内での周知に努め、グループ各社・社内各部署で具体的な活用イメージを持ってもらいたいと考えている。
そして今後は、データ資産の横断利用の第一歩として、グループ間でのシナジーにつながる象徴的なデータと言える、有効会員数約90万人を抱える京急プレミアポイントカードデータの更なる活用促進なども検討している。「KIDDS内でほかのデータと掛け合わせることで、今まで以上に各社横断の営業施策などにつなげたり、京急グループのロイヤルユーザー向けサービスの展開や沿線エリアのマーケティング活動を展開したりする施策を検討しています。社会環境が激変するなかでも顧客に選ばれるイノベーティブな新サービスの創出にもKIDDSの活用を推進していきたいと思っています」(藤峰さん)
ほかにも同社では、売上データの集約による管理の効率化も目指している。現在はグループ各社・社内各部署で売上報告書のフォーマットが異なっており、報告をうける上層部は形式や粒度が異なるレポートを読み解くのに時間を要している。今後は売上データをKIDDSに集約し、同一のダッシュボードでデータを集計・可視化することで、報告書の作成や集約、分析の効率化を図っていくという。
「スムーズなレポーティングが可能となるだけでなく、どこからでもアクセスしてデータを共有できるため、KIDDSはリモートワークとも相性が良いです。今後の活用シーンは増えていくと思っています」(藤峰さん)
交通事業では、ビーコンやアプリで取得する移動データの活用や、近年注目されるMaaS領域でのビックデータ活用など、さまざまな分野でデータ活用の発展が期待されている。「KIDDSは自社内でも大きなプロジェクトですが、まず“キッズ”の名の通りスモールスタートで立ち上げました。利用者の意見を反映させながら、未来ある子供のようにここから大きく育てていきたいです」(藤峰さん)
社会環境が激変する中で、京急電鉄はデータから新たな事業を生み出せるようなシステムとしてKIDDSの発展を目指している。
※2022年6月より「SPA」および「SPA Cloud」は「invoiceAgent 文書管理」「invoiceAgent AI OCR」に名称を変更しました。

現在はSVF ArchiverおよびSVF Transactに名称変更しています。





