導入事例

広島大学

広島大学

世界トップ100の大学となることを目指し
モニタリング指標の可視化による教員人事・大学経営を推進
~教員の様々な情報を可視化し、最適配置を考える~

広島大学
製品
業種

教育

広島大学は、10年後に世界トップ100の大学となることを目指して大学改革を推進している。その取り組みのひとつが、教員に関する様々な情報をデータウェアハウスに蓄積し、あらゆる視点からデータを引き出し、それを可視化する仕組みづくりだ。教員の業績や活動実績を全学共通の尺度でモニタリングする「AKPI®」と「BKPI®」という広島大学独自指標を設定している。これらと連動して教員を適切に配置することで研究ならびに教育の両面から最大の成果を出せるようにする。

導入背景

全体最適の考え方に基づいた教員人員配置のコントロールを実現するため、各教員の多岐にわたる情報をExcelに集約し、数値化(ポイント化)されたデータを積み上げたり突き合わせたりしながら、最適解を導き出したいと考えた。とはいえ、Excelのピボットテーブルでこうした複雑な集計を行うのは容易ではなかった。

課題
  • 研究と教育の両面において最大の成果を出せるよう、教員を適切に配置したい
  • 各教員の様々な情報をExcelのピボットテーブルで集計するのには大きな負担がかかる
解決策導入ポイント
  • 教員の業績や活動実績を全学共通の尺度でモニタリングするために、「AKPI®」と「BKPI®」という広島大学独自の指標を設定
  • 教員に関する様々なデータを蓄積するデータウェアハウスのフロントエンドツールとしてMotionBoardを活用
効果
  • 教員一人ひとりのパフォーマンスを可視化できるようになった
  • 適切な教員人事を行うためのエビデンスとしてデータを活用

学術情報サイトに登録されている論文に関するデータから、教務や人事などの各学内業務システムに分散している外部資金、受賞歴、担当する授業科目、履修人数、指導学生数にいたるまで、教員に関する様々なデータをデータウェアハウスに蓄積。フロントエンドツールとしてMotionBoardを導入し、教員の業績などあらゆる視点からデータを引き出し、それを可視化できる環境を整えた。

東広島キャンパス cafe周辺

教員組織を教育研究組織から分離し、全体最適で配置する


 国立大学は今、厳しい経営改革が求められている。経営の大きな支えとなっている運営費交付金は、国の財政再建が急がれるなかで毎年削減が続いているのが実情だ。さらに文部科学省は、国立大学に対して競争を促す方向へと舵を切った。これまで運営費交付金は、基本的に大学の教員・学生数の規模で配分されてきたが、近年は支援に“強弱”を打ち出した施策が増加している。


 例えば「重点支援枠」は、これまで各大学が自ら設定した教育研究活動と指標により評価されていたが、今後は全国の大学共通の相対的な評価指標により配分が決められることになった。そこでは寄付金や共同研究費の獲得、業績評価など人事給与改革の状況が高く評価され、運営費交付金に頼らず、自主財源比率を高めることが促されている。


 こうした時代の変化を先取りした変革を進めてきたのが広島大学だ。以前は他の国立大学と同様に研究科ごとに独立した人事が行われてきたが、この枠を取り払った全体最適の人事に切り替えた。


 広島大学では、2016年度に教員組織を教育研究組織(学部・研究科)から分離し、すべての教員を学術院の『所属』とした。さらに、2019年11月から、次の二つの領域を学術院に設置した。学術院に所属する、広島大学の全教員のそれぞれは、次の二つの領域に属している。
・基礎教育領域(全学入試作問等や全学共通科目を担当することができる分野と対応)
・専門領域  (業績評価を受ける分野と対応)


 「基礎教育領域」は12、「専門領域」は11であり、両方の領域群に共通の「領域内訳」は、99設定されている。このようにして、全教員の教育及び研究における専門性を「見える化」できるようにした。こうすることで、学部や研究科の枠を越えた、教員の配置や業績評価が可能となる。


AKPI®とBKPI®で大学力をモニタリング


 広島大学は、どんな人事や大学経営を目指しているのだろうか。これを読み解く上での重要な手がかりとなるのが、広島大学が独自に策定した「AKPI®(Achievement-motivated Key Performance Indicator)」と「BKPI®(Basic Effort Key Performance Indicator)」という2つの指標だ。


 広島大学は、10年後に世界トップ100の大学となること、そして研究と教育の両面において大学として最大の成果を出すように教員を適切に配置できるようになることを目指している。端的に言えば、この目標を達成するためにモニターすべき指標として設定しているのがAKPI®である。


 世界トップ100の大学として備えているべき、教育や研究に関連する数値(教員一人当たりに換算)を10年後の目標値に設定し、それをポイント化した。具体的には教員一人あたり、①授業担当(credits※)300ポイント、②博士人材の養成150ポイント、③SCI論文数300ポイント、④外部資金受入150ポイント、⑤国際性100ポイント、総計1,000ポイントである。
 ※credits・・・credits = Σ{(科目の単位数)×(その科目の受講人数)}


 重要な点は、全教員の一人ひとりが、上記の5つの項目についてそれぞれの上記目標ポイントに到達しなければならないという意味ではない、という点である。ある教員は非常に多いcreditsを担当しているが、SCI論文はそれほど多くはない、あるいは外部資金受入れは少ないけれど多くの留学生のチューターとなっているといったそれぞれの特性がある。大学全体の平均値として、各項目が目標ポイントに達していれば、広島大学が教育機関として学生に学位を授与し、なおかつ世界的な研究を遂行し、世界から研究者や学生が集まる活発な大学となっていることを意味しているのだ。


 一方のBKPI®は、教員のさまざまな活動を、全学共通の尺度で可視化するものだ。AKPI®は、項目を厳選してあることに対して、BKPI®は、教員のさまざまな活動の多くを含んでいる。教育活動(授業担当時間数、学生指導、学部入試問題作成)、研究活動、社会貢献、大学運営、診療(病院)、センター業務など、様々な活動実績を蓄積し、可視化できる体制を整えている。


 このAKPI®を含む教員に関する様々な情報を管理するために広島大学が2014年度から整備を進めてきたのが、教員の教育研究活動情報を蓄積管理する「教育研究情報収集システム」と呼ぶデータウェアハウスである。具体的には「Web of Science」や「CiNii」といった学術情報サイトに登録されている論文に関するデータ、教務や人事などの各学内業務システムに分散している外部資金、受賞歴、担当する授業科目、履修人数、指導学生など、教員に関するすべてのデータを蓄積管理するものだ。この教育研究情報収集システムには、教員に関する様々な情報がすでに過去5年分蓄積されている。
 * AKPI®、BKPI®は、広島大学の登録商標です。


必要とされるのは、データに裏付けられたエビデンス


 AKPI®およびBKPI®の基本的な考え方は現在では広く公開されており、他大学にも大きなインパクトをもたらした。だが、本当の意味でこの仕組みを実践し、教員人事・大学経営の改革につなげていくために求められるのは、システムを活用した運用体制の確立である。


 広島大学の教員数は1,794人(2019年5月1日現在)で、毎年100人程度入れ替わる。年齢層も20歳代から70歳代まで幅広い。このため、各領域において、どういった分野の教員が何人くらい必要とされているのか、教員一人ひとりの専門性や業績などを把握しながら、適切に配置する必要がある。すべての学部・研究科を横断した全体最適の考え方に基づいた教員人事を実現するために必要とされるのは、データに裏付けられたエビデンス(根拠)に他ならない。


 この課題に対してまず始めたのが、各教員の多岐にわたる情報をExcelに集約し、数値化(ポイント化)されたデータを積み上げたり突き合わせたりしながら、最適解を導き出していくという方法だ。とはいえ、Excelのピボットテーブルでこうした複雑な集計を行うのは容易ではない。事務的にも大きな作業負担がかかっていた。


 そこで広島大学は2018年3月、データウェアハウスのフロントエンドツールとしてMotionBoardの導入を決定。ITベンダーとして可視化のノウハウを持っている株式会社SRA西日本が導入とダッシュボード開発を担当した。こうして、教員の業績などあらゆる視点からエビデンスを引き出せる環境が整った。


各教員の情報を集約したダッシュボード

「credits」に基づいて、授業科目の適切な担当を支援


 これによって実現した成果のひとつが、「credits」に基づいた授業科目の適切な担当の支援である。広島大学の学部の入学者は約2,500人で、在学期間内に130単位程度を修得して卒業する。その総単位数が大学として最低限として満たさなければならないcreditsの理論値であり、それは30数万creditsとなる。大学としては学部入学者全員を卒業させることが大前提であり、要するにその30数万creditsを、約1,800人の教員が確実に、適切に、分担する必要がある。


 「どういった専門性を持った教員が、それぞれ現在何creditsを担当しているのか、MotionBoard上で迅速に可視化できるようになりました」と話すのは、広島大学 理事・副学長(大学改革担当)の相田 美砂子氏だ。


 もちろん、これだけで全学に及ぶ教員人員配置の最適解を導き出せるわけではない。各学部・学科では時代にあわせて常にカリキュラムの見直しが行われており、一方で定年を迎えた教員が毎年何人か退職していくからだ。


 「今後どういった教員の配置が必要となるのか、さらにはどんな後任教員の補充が必要となるのか――。数年先を見据えた上で人事の新たな方向性を策定していく必要があり、そのためにも一人ひとりの教員のパフォーマンスを可視化することが大切になります」と相田氏は語る。その意味では取り組みはまだ道半ばだが、「まずは一歩を踏み出せました」と前向きだ。


モニタリング指標の可視化によるパフォーマンス向上に向けて


 MotionBoard上で一人ひとりの教員のポイント、あるいは領域ごとの平均値など柔軟な視点で見えるようになった。以前は、これらのデータは参考情報としてモニタリングされているだけだったが、今後は、人事の適切な判断を行うための客観的なエビデンスとして活用していく。その延長線上に、広島大学が掲げている『100年後にも世界で光り輝く大学へ』というビジョンの実現がある。


 さらに広島大学は、愛媛大学、徳島大学、山口大学、島根大学とともに教育研究業績やエフォート管理の共通指標となる「C-KPI(Common Key Performance Indicator)」を構築中だ。広島大学が推進するモニタリング指標による教員人事の考え方が他大学にも波及し、さらに将来的に複数の大学をまたいだ教員の知的資源の共有化が可能となれば、国立大学の経営効率は大きく改善するとともに、世界の中での日本の貢献度の底上げを図ることが期待できる。


Company Profile

広島大学

設立:1946年
法人本部所在地:広島県東広島市
【学部】総合科学部、文学部、教育学部、法学部、経済学部、理学部、医学部、歯学部、薬学部、工学部、生物生産学部、情報科学部
【大学院】総合科学研究科、文学研究科、教育学研究科、社会科学研究科、理学研究科、先端物質科学研究科、医歯薬保健学研究科、工学研究科、生物圏科学研究科、国際協力研究科、法務研究科(法科大学院)
※インタビュー当時(2018年7月26日)
※2020年度より、大学院は、次の4研究科に統合再編する。
 (人間社会科学研究科、先進理工系科学研究科、統合生命科学研究科、医系科学研究科)
URL :https://www.hiroshima-u.ac.jp/

広島大学
理事・副学長 大学改革担当(2018年インタビュー時)
相田 美砂子 氏

導入製品

BIツールを超えたダッシュボード「MotionBoard」。様々なデータをリアルタイムに可視化。クラウドサービスは月額30,000円から

 
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