北海道大学の将来を担う研究基盤IRの強化
北海道大学の特色を生かした研究の将来ビジョンの実現を両輪として支えているのが、「GFC(グローバル ファシリティ センター)」および「URAステーション」という2つの組織である。GFCは北海道大学創成研究機構内に2016年に発足した組織で、学内のさまざまな先端機器の共用化を進めていく役割を担っている。
GFC 副センター長を務める佐々木 隆太氏は、その概要を次のように説明する。
「オープンファシリティ事業では、250台を超える先端研究機器を学内外に開放するサービスを行っています。もう1つの柱となっているのが機器分析受託事業で、さまざまなサンプルの分析をプロフェッショナルが代行するサービスを提供し、民間からの依頼も拡大しています。こうして学内の研究力の強化を図るとともに、学外との共同研究の創出や技術人材の育成といった形での社会貢献を目指しています」
一方、北海道大学の研究力強化に向けた戦略立案と実行を担う研究・経営マネジメントの専門家組織として立ち上がったのがURAステーションだ。
主任URAの加藤 真樹氏は、「高度な専門知識を持つURA(リサーチ・アドミニストレーター)が、学内外の組織と連携しながら、大学経営戦略の立案、研究基盤に関わるシステム改革、大型研究プロジェクトの企画・推進、人材マネジメント戦略に至るまで、北海道大学の研究力強化に向けた幅広い活動を行っています」と話す。
このようにGFCとURAステーションは非常に密接な関係にあり、メンバーも相互に連携しあいながら活動している。
そうした中、GFCとURAステーションが共同で取り組んでいる課題のひとつに研究基盤IRの強化がある。IR(Institutional Research)とは、研究戦略や教育改革、社会貢献など、大学運営における戦略策定や意思決定をサポートするための情報収集および調査研究活動を指す。例えば教員や学部・学科ごとの論文数や被引用数といった実績データから、北海道大学の強みとなる研究領域を把握し、他大学との差別化戦略を検討し、研究力強化,大学の評価向上に向けた経営戦略に生かしていく。
URAの阿部 義之氏は、「教員にとって自身のテーマの研究を続けていく上で、文部科学省の科研費(学術研究助成基金助成金/科学研究費補助金)や民間等からの研究委託費などの外部資金が不可欠であり、研究基盤IRによるデータ分析をもとに、各教員がより多くの研究資金を得られるよう支援を行っています」と説明する。
サポート体制の充実した国産BIとして
Dr.SumとMotionBoardを導入
一言で研究基盤IRによるデータ分析といっても簡単なことではない。研究力を把握する指標は前述した論文数や被引用数だけでなく、担当する講義の時間数など多岐にわたるからだ。それらの指標をすべて突き合わせながら、総合的な評価を行わななければならない。例えば研究の実績・業績を評価する上では、どんな先端機器を活用し、どんな分析を行ったのかといった履歴も重要なポイントとなる。
そこでGFCのオープンファシリティ事業や機器分析受託事業との連携が重要なポイントとなるわけだが、こちらのデータ活用もまだ十分ではなかった。「各機器の利用時間や受託分析の内容に応じた料金の計算や徴収といった業務をシステム化するところでとどまっており、蓄積した実績データを活用するところまでは至っていませんでした」と佐々木氏は語り、「機器共用に関する詳細な情報を集約し、多角的な可視化や分析を可能とする研究基盤IRシステムの構築が急がれていました」と強調する。
この課題解決で注目したのがBIツールで、北海道大学はSIパートナーから紹介されたウイングアークのDr.SumおよびMotionBoardを2021年2月に導入した。ここに至った選定の経緯を、佐々木氏は次のように振り返る。
「他社のBIツールも検討していましたが、基幹系を含めたさまざまなシステムからデータを集める連携の仕組みからデータを可視化するダッシュボードまで、すべてを自力で構築しなければならずハードルが高すぎます。これに対してウイングアークはデータの扱いも含め信頼できる国内のベンダーで、自社開発したDr.SumやMotionBoardを提供しています。なおかつ導入前のコンサルティングからPoC(概念実証)、システム構築、活用まで一貫してサポートしてくれる体制が用意されており、とても心強いと感じました」
さらにGFC オープンファシリティ部門 部門長の吉沢 友和氏は、以下のように話す。
「世の中にはさまざまなBIツールがありますが、そのほとんどがクラウドタイプです。しかし研究基盤IRシステムで扱うデータの中には学外に出せないものも多く、安易にクラウドには踏み切れません。その点、Dr.SumやMotionBoardは学内のオンプレミス環境にサーバーを立て、クローズドなネットワーク上でも運用することが可能で、私たちのニーズに合致していました」
ダッシュボードのプロトタイプを作成
研究基盤IRシステムの構築は、ダッシュボードづくりからスタートした。北海道大学からヒアリングした「こんなデータをこんな形で可視化したい」というイメージを、ウイングアークのサポートメンバーが具現化していく形をとっており、すでにいくつかのダッシュボードが作成されている。


※いずれもサンプルデータを使用しています。
例えば研究基盤IRシステムのトップ画面に位置するダッシュボードは、オープンファシリティ事業が対象とする先端機器全体を俯瞰してそれぞれの利用実績を把握し、今後の予算をどこに振り向けるかを判断できるようにすることを目的に作られたものだ。
GFC 機器分析受託部門 部門長の岡 征子氏は、「請求一覧、論文一覧、科研費一覧、登録装置一覧および利用状況などのデータを集約。部門別の収集割合に対して、使用した装置や発表した論文の数などを把握することができます。各装置の設置場所をキャンパスマップ上に表示したり、月別の収入を積み上げ式のグラフで表示したり、利用頻度の高い装置の実績をトップ10表示するなど、可視化に工夫を凝らしています」と、その活用方法を話してくれた。
研究基盤IRシステムを活用して持続的な研究成果を創出
もっとも研究基盤IRシステムの構築は緒に就いたばかりであり、現在はDr.Sumを基盤とするデータウェアハウスの整備を進めている過程にある。
「データウェアハウスには学内のさまざまな基幹システムや周辺システムのデータを収集・蓄積する計画です。どの論文がどの研究機器を使用しているかというパラメーターもDr.Sumに実装予定です。また、使い慣れたExcelをユーザーインターフェイスとして、より詳細なデータ分析を行えるDr.Sum Datalizer for Excelを提供し、自由度の高い集計・高度なOLAP分析までを実行できる環境を整えていきたいと考えています」と岡氏は展望する。
今後は国立大学といえども自立した経営戦略が必要とされており、精力的な研究活動を通じてブランド力を高めていかなければ競争力を失ってしまうおそれがある。だからこそ継続的な変革が求められるのだ。
「研究基盤IRシステムを活用して精査したエビデンスをもとに、部局教職員で構成した研究基盤高度化委員会が設備高度化の投資戦略を立案。これを踏まえて大学執行部が投資判断を行い、さらに機器共用機能強化プログラムや研究支援人材育成プログラムといった取り組みを連動させることで、持続的な研究成果の創出と社会還元を支えていきます」と佐々木氏は語り、研究基盤IRシステムをコアとしたEBPM(Evidence-based Policy Making)のマネジメントサイクルを確立していくとする。





