
IoP(Internet of Plants)の統合管理システムを構築
温暖で多日照という恵まれた気候を活かし、園芸農業生産性日本一を誇る高知県。この産業のさらなる発展を目指す中、産学官(高知大学・高知工科大学・高知県立大学・高知県・産業団体・企業)が連携し、内閣府による地方大学・地域産業創生交付金を得る形で2018年に「IoP(Internet of Plants)が導くNext次世代型施設園芸農業への進化プロジェクト」を開始した。
その一環としてIoPの統合管理システムの構築を進めているのが高知工科大学だ。同学においてこの取り組みをリードする環境理工学群の教授である古沢浩氏は、「統合管理システムが目指すのは、『バイオマス発電熱電併給によるコスト削減』および『環境制御による農作物の成長コントロール』です。IoPによって導き出された農作物の生産から流通に至るあらゆる情報をクラウドに統合し、最終的に農家にフィードバックするための手法を開発します」とその概要を語る。
統合管理システムの構築環境として利用しているバイオマス発電は、高知工科大学の教員らが中心となって設立したベンチャー企業「株式会社グリーン・エネルギー研究所」の取組みを参考に運営している。同学ではバイオマス発電と新たに施設園芸ハウスを設置し、バイオマス発電から発生する排熱をハウス内の冷暖房に利用することで、施設園芸農家にとって重い負担となっているエネルギーコスト削減に向けた解決策の確立を目指している。加え、ハウス内のCO2濃度、温度、湿度、日射などのデータをリアルタイムに管理・コントロールすることで、農家の収益を最大化する環境制御型栽培のあり方を実証しようとしている。
とはいえ、この仕組みづくりは容易ではない。「単にデータを集めただけでは意味不明な数字の羅列にすぎず、ITの専門家ではない農家の方々にも簡単に理解できる“見える化”に重点をおいたシステムでなければなりません。また、得られたデータをその場で利用するだけでなくエビデンスとして蓄積し、例えば農作物が枯れてしまった場合にその原因がどこにあったのか、あとから“振り返り”ができなければその先の改善に生かしていくことができません」と古沢氏は語る。

最大のポイントはダッシュボードの柔軟かつ容易な拡張性
この課題の解決策を模索する中で出会ったのが、ウイングアーク1st(以下、ウイングアーク)の「MotionBoard」である。
古沢氏がウイングアークに興味を持った理由の一つに、ウイングアークのCTOである島澤甲が自宅をIoTの実証実験の場としていたことが挙げられる。家族の動きを可視化したり、マイカーを自動洗車したりしているデモンストレーションの数々を見て、大きな関心を抱いた。さらにウイングアーク自身が農業生産法人を設立し、農作物の生育状況や農場経営データをMotionBoardで可視化する基盤を構築し、「儲かる農業」を実践しようとしていることにも強いシンパシーを感じた。「私たちが実現したいと描いていた統合管理システムのイメージが、まさにそこにありました」と古沢氏は語る。
そして実際に触ってみたMotionBoardもニーズに合致するものだった。最大のポイントはダッシュボードの柔軟かつ容易な拡張性である。
「農業といっても実態は工場と同じで、日々改善を繰り返している世界です。そのためには取り込んだデータを様々な切り口で可視化・分析するダッシュボードを次々に作り、共有化していかなければなりません。必要なダッシュボードを自分たちの手で自立的に作っていける環境でないと、そもそもコスト的にも成り立たないのです」と古沢氏は語る。
こうして2020年3月、高知工科大学は統合管理システムの基盤としてMotionBoardを正式導入した。
CO2濃度、温度、湿度、日射の4つの環境データを可視化
その後、高知工科大学における統合管理システムの構築は順調に進み、2020年11月にはCO2濃度、温度、湿度、日射の4つの環境データを可視化するダッシュボードの運用を開始した。画面に表示された実験用ハウスのイメージイラスト上で、きゅうり(水耕)、トマト(水耕)、ピーマン(土耕)、なす(土耕)の栽培を行っているそれぞれの区画をクリックすると、現在の環境データが表示される仕組みだ。
さらに2021年1月には、バイオマス発電の発電量や実験用ハウスに取り込む排熱量を可視化するダッシュボード、産地直販市場と連携して各作物の日々の出荷量や売上高を可視化するダッシュボードの運用を開始した。これにより作物の栽培から出荷まで、施設園芸農業のライフサイクル全体をカバーする統合管理システムの一通りのプロトタイプが完成したことになる。
「バイオマスから抽出した可燃性ガスにより稼働する発電用エンジンの排熱を、どのようにハウス内に取り込めば、寒波が到来して冷え込んだ朝方にも作物に被害を出さない温度管理ができるのか。また、CO2濃度、温度、湿度、日射のKPIを監視しながら、どのようなバランスをとった環境制御を行えば安定した出荷量を得られるのかといった分析や検証を行うことが可能となりました」と古沢氏は、ここまでの手応えを示す。
なお、これに加えて高知工科大学では、ハウス内で利用する各種環境センサーの信頼性や耐久性を検証するダッシュボードも作成している。気象観測などの研究用として用いられている高精度な環境センサーが計測する数値を基準とし、これとベンチマークを行う形で主要メーカーの環境センサーの評価を行うものである。
将来的に統合管理システムをすそ野の広い農家に展開していくためには、投資コストを最小限に抑えなくてはならない。そこで使える実用的な環境センサーや制御の仕組みをそこから見極めようとしている。

移動式カメラを走らせて作物の生育状況を監視
もっともNext次世代型施設園芸農業プロジェクトは緒に就いたばかりであり、統合管理システムについてもさらなる機能強化が必要だ。
「バイオマス発電から得られる電力や廃熱、様々な環境要因、水耕栽培で用いる水に含まれている肥料成分などのデータを総合的に紐づけながら最適に制御し、その結果として作物の売上にどのようにつながったのか――。要するに、いつ、何をすれば売上が最大化するのかを明らかにする仕組みを提供することが、我々に求められるアウトプットのすべてです」と古沢氏は強調するとともに、統合管理システムにおいて早期に可視化しなければならないもう1つのKPIとして「労務データ」を挙げる。
農業は栽培する作物の種類や育て方によって労働時間が大きく変わってくる。こうした労務データを反映しないことには本当の意味での収益を算出することはできず、古沢氏らのチームは現在その可視化に向けたダッシュボードを開発している過程にある。
さらに新たな施策として、ハウス内に敷設したレール上を移動式カメラが走り、作物生育状況を監視する取り組みがスタートしている。撮影した映像をオルソ画像※に変換することで作物の草勢を定量的に把握でき、1日1回定時に得るオルソ画像から作物全体の日変動計測が可能になった。また、ダッシュボード上の操作によるオンデマンド・カメラ移動制御も実現し、遠隔で作物の状況を確認できる環境が出来つつある。
※土木分野の測量で用いられており、画像上で位置、面積及び距離などを正確に計測することが可能で、地図データなどと重ね合わせて利用することができる
「どこまで社会実装ができるかは未知数ですが、次世代の農業のあり方を示し、その手法を高知県だけにとどまらず全国に広げていくためにも、大学ならでは追求可能なテーマとしてチャレンジしていきたいと考えています」と古沢氏は語り、IoPを活用した統合管理システムのさらなる進化を目指している。





