会社の状況が見えずに業績が悪化
三井屋工業は、今年創業75周年を迎える自動車の内外装部品メーカーである。大手自動車の一次請けメーカー(Tier1)で、トランク内の内外装材である「ラゲージ内装部品」と、車内での騒音やロードノイズを軽減するためにタイヤ上部に装着される機能部品の「フェンダーライナー」を主力製品としている。
同社は長年にわたる実績がある反面、工場の稼働状況や生産データの管理はアナログな方法で行われていた。それにより作業工程や管理に少しずつ無駄が生じ、その実態を把握できていなかったために業績が悪化。そこで2018年に製造業を中心に事業承継を支援するセレンディップの傘下に入り、業績改善に取り組んでいた。伴走を担当し、当時三井屋工業の役員を務めていたセレンディップ 執行役員 梅下 翔太郎氏は、当時の課題について次のように振り返る。
「当時の三井屋工業は、会社の状況が見えてい ませんでした。内部ではコミュニケーションエラーが起こって、結果として不良率が悪化し、それがお客さまにまで及んでしまうこともありました。不良率が悪化すると、それをカバーするための残業が増え、生産性低下や収益悪化を招きます。そして収益の悪化や、頑張った人へのインセンティブが少ないことで、 離職率も高くなり現場の力が低下していました」(梅下氏)

デジタル化による改善を検討し独自アプリを開発
そこで最初に着手したのが、現場の状況の把握である。工場では紙の作業日報を運用し、現場で不良が出たらそれを作業員が紙に書いて集計する方法をとっていたが、紙ベースで上がってきた不良率が2%程度なのに、財務データによる実際の不良率は4%以上だったということもあったという。
「紙では情報が上がってくるのが遅く、間違えるポイントがたくさんあり、現場の負担も大きくなります。この状況を変えるためにデジタル化を進めるという選択をしました」(梅下氏)
ただ、財務状況が良くない状態で、成功するかどうか分からないシステムの開発に多額の費用を投入することはできない。そこで、三井屋工業の情報システム部門がローコードツールを活用して電子日報アプリを開発し、2020年の2月からiPadと組み合わせて現場での試用を開始。そこで一定の成果が見られたため、アジャイルでアプリの改善を行いつつ、同年5月にα版の正式運用を開始した。
業界団体でウイングアーク1stに出会いデジタル化が加速
他方で三井屋工業は、製造現場のデジタル化を促進する業界団体のIVI (Industrial Value Chain Initiative)に参加し、自社が抱える課題を実証実験のテーマとして提供。ワーキンググループでのプロジェクト型による課題解決を図った。そこでウイングアーク1stと出会い、MotionBoardの存在を知った。
「BIダッシュボードというものがあると聞いて、使えそうだと直感しました。以前からホワイトボードを使って生産進捗を可視化していましたが、そこをデジタル化したいというニーズもありました。MotionBoardで生産実績を出して、いつでもすぐその状況がわかるダッシュボードがあれば、さまざまな課題に対する打ち手が早くなると思い、IVIのワーキンググループとは別にウイングアークに声をかけました」(梅下氏)
ダッシュボードの選定に関しては、ほぼMotionBoard一択だったという。「我々が作りたかった進捗ボードを表現しようとすると、たくさんのチャートが必要になるのですが、それを表現できるのがMotionBoardでした。日本のベンダーなので、サポート面でも安心でした」(三井屋工業 経営企画室 プロジェクトマネージャー 近藤 啓二 氏)

同時期に三井屋工業では、これまで拠点のなかった東北エリアに 新工場の建設を決定。2021年4月に、山形県米沢市に東北工場を立ち上げた。
「三井屋工業のモノづくりにおける最大の目標は、安心して良品だけを効率的に作り続けることです。それを最短距離で実現する手段が『スマートファクトリー』だという結論になりました。これまで本社工場でのデジタル化のPoCを進めていましたが、従来の工場でIoTなどを活用するには物理的なインフラ面で制約がありました。そこで、まず新工場で我々が理想とするデジタル化を進め、そこで得た成果を本社工場に横展開したのです 」(三井屋工業 本社製造部 主査 中川 友裕 氏 )

HiConnexにMotionBoardを連携し進捗をリアルタイム管理
電子日報アプリに端を発した生産実績管理 システムはHiConnexという製造現場DX支援ツールへと進化を遂げた。 設備の詳細データ、センサーからのデータ、設備内のカメラや定点カメラのデータを取得する 。現場では生産情報や不良情報がHiConnexに集約され、MotionBoardとの連携により進捗をリアルタイムで管理できる。
オペレーションの現場では製造ラインごとにタブレットを設置。担当者は、ラインでの作業に取りかかる際、QRコードを読み込み 、作業開始ボタンを押す。そして作業終了時にも終了ボタンを押すことで、作業時間が記録される仕組みとなっている。
MotionBoardのダッシュボードが表示されているディスプレイは視認性の高い工場中央に設置され、その中に進捗管理画面、KPIとの比較画面など、4つのダッシュボードが表示されている。
「進捗管理ボードでは計画と実績がガントチャートで表示され、計画に対して今どういう状況かが判断でき、作業遅延やトラブルがすぐに分かります。KPIの画面ではべき動率 や停止時間、不良数がラインごとに表示されていて、異常のデータをクリックするとドリルダウンして内容を分析できます。そのほかにも、 段取り替えの状況を確認する画面など、工場ごとに管理したいデータの画面が表示される仕組みになっています」(近藤氏)

離職率が約10%から1.6%へと激減し、業績も黒字化
HiConnexとMotionBoardの最大の連携効果は、異常が起きた時の対応だ。
「異常が起きた時に作業者がタブレット上のボタンを押すと、あらかじめ登録された管理職のスマートウォッチに、どのラインで異常が起きたかを知らせる連絡が入ります。速やかに管理者が駆けつけて対応するとともに、異常の種別、不良が何個出たのかなどの情報をHiConnexに登録し、復旧にどれだけかかったのかということを含めて、それらの情報を品番データに自動で紐付けていきます。記録したデータは後に整理し、分析して利活用します」(中川氏)
その結果としてHiConnexを導入した工場では、遅れが生じたらすぐに手当てができ、ライン上で異常が発生したときに歯止めがかけられるようになり、さらには不良発生の原因を分析して再発も防止できるようになって、大きな成果が見られた。
「不良率は従来工場と比べて4.0%から0.4%へ改善されました。新工場では、不良率が0の月もあるほどです。また製品1個あたりのサイクルタイムロスも、100%削減されました。今までは本社工場だけで1日あたり20時間分の残業が発生していましたが、ダッシュボードで状況が可視化されて従業員も生産標準時間や自分たちの労働生産性を気にするようになり、現在はロスがほとんど出ていません」(梅下氏)
これらによって新工場の生産性は200%向上し、業績も黒字化。労働環境も改善されたことで、離職率は約10%から1.6%へと激減した。
工場のさらなるスマート化に向けてカメラのデータを活用
大きな成果が見られた一方で、課題も残されていた。スマートファクトリーでは設置カメラで取得した動画によるトレーサビリティを実施するにあたり、何かあったときに動画の中から何月何日何時何分単位で工程を一つずつ検索する必要があり、手間と時間がかかるという課題が生じていた。
「その課題をどうやって解消していくべきかを検討し始めたところ、ちょうどウイングアーク1stからMotionBoardでカメラ連携機能を実装したと連絡があり、PoC(概念実証)をすることにしました」(近藤氏)
三井屋工業では、本社工場も含めてMotionBoardとセーフィー株式会社のクラウド録画カメラを使ってPoCを実施している。
「たとえ新しい技術が登場しても、検証段階で技術面やコスト面での敷居があると一歩目が踏み出せないものです。MotionBoardは、我々の工場側でカメラを設置するだけというレベルでPoCを回せるので、スピーディかつ低コストで試すことができました」(梅下氏)
動画活用のPoCによって、ある障害の原因を特定できるなど、既に一定の成果が出ている。
ここまでの取り組みを通じて梅下氏はウイングアーク1stに対し、「製品の機能や価格も大事だが、アジャイル開発やPoCを通じて、損得の利害より先に製造業としてあるべきDXの姿を一緒に考えられたことが意義深かった」と語る。また今後に関しても、「我々と同様の困り事を抱えている中小製造業の皆さまのデジタル活用レベルが高まることで、日本の製造業全体に波及効果をもたらしてほしい」と、高い視座からの期待感を寄せている。
※:三井屋工業の親会社であるセレンディップ・ホールディングス株式会社がサービス展開しています。







