製造業DXとは?
製造業DXとは、デジタル技術を用いて、製造から出荷後のアフターサービスまでのデータを一元管理し、工場の生産性向上や商品・サービスの品質向上、コストダウン、人手不足解消の実現を目指すための取り組みです。
製造過程の単なるデジタル化やIT化を意味するのではなく、データ分析で得た結果を業務改善や新商品の企画開発にまで活かすことがポイントです。
DXとは?
DXとは「デジタルトランスフォーメーション」の略です。企業がデータやデジタルを活用し、ビジネスに関わるすべての事象に変革をもたらすことを意味します。
例えば次の項目のように、革新的なイノベーションをもたらす取り組みがDXです。
- 新しい商品やサービス、ビジネスモデルを創出する
- ビジネスモデルに生産性の向上やコスト削減、時間短縮をもたらす
- 働き方に改革をもたらす
- 企業の固定観念や風土を変革する
DXには毎日変化するユーザーや社会のニーズに適応しながら、ビジネスモデルの変革をもたらし、競争の優位性を高める役割があります。
製造業でDXが注目される理由
製造業でDXが注目される理由は主に2つあります。
1つ目の理由は、新型コロナウイルス感染症流行の影響により、日本の製造業における現場主義や、人材不足による弊害が表面化されたためです。
予測困難な社会情勢のなか、DXを導入してサプライチェーン全体を可視化し、限られた資源のなかで事業を着実に継続することが企業に求められています。
2つ目の理由は、世界市場における競争の優位性を保つうえで、DXは不可欠だからです。
例えば、脱炭素・脱プラスチックなどの環境規制の動きや、国際間での資源価格の変動など、刻一刻と変化する国際情勢への柔軟な対応や、日本の製造産業の競争力向上のために、DXは有用だとされています。
製造業DXの妨げになる課題
製造業DXの効果的な推進には、どのようなポイントに注意すべきなのでしょうか。
推進の妨げになる課題を3つ解説します。
DX専門の人材不足
日本では少子高齢化にともない労働力が減少しているのに対し、IT人材は不足している現状があります。
経済産業省の調査によると、IT人材の供給不足は2030年までに最大で約79万人に拡大すると見込まれるほど、日本のIT人材不足は深刻な状況です。
このような人材の需給ギャップ下において、自社DXの推進を担えるような高いITスキルをもつ人材の採用はさらに困難になります。
優秀な人材ともなれば、一般企業ではなくIT企業へ流れる可能性が高いでしょう。
人材確保がうまくいかないと技術継承も難しくなるため、安定的な商品・サービスの生産や安全性の担保が結果的に損なわれる可能性があります。
適切なIT投資ができていない
DXを実現する主な目的は業務効率化やコスト削減にありますが、この目的達成には適切なIT投資が必要です。
IT投資の目的は、次の2つの能力を重視するタイプに大別されます。
- オーディナリー・ケイパビリティ(Ordinary Capability:ものごとを正しくおこなう能力)
- ダイナミック・ケイパビリティ(Dynamic Capability:正しいものごとをおこなう能力)
多くの日本企業はいまだに、事前に決められた手順に沿って物事を遂行する、オーディナリー・ケイパビリティの考え方から脱却できていません。
そのため、ダイナミック・ケイパビリティを目的とした取り組みが急務です。
不測の事態への対応を重視し、業務効率化やコスト削減を目指す仕組みづくりが必要です。
属人化したアナログ作業が多い
日本の製造業は属人化している傾向が高く、重要な作業内容であっても特定の社員しかその手順を把握していない状態はめずらしくありません。
本来であれば、誰でも作業内容を把握できる状態にしておくことが望ましいのにもかかわらず、時間的な余裕の欠如や人手不足のために、専門性や経験が豊かなベテラン層にコア業務を依存しているケースも多いです。
また紙による手作業や古い設備の利用、人の勘やコツなどに頼ったアナログ作業が多い点も、製造業のDXが進まない要因です。
設備や日報、生産・在庫に関してデータが一元管理されていないため、データを可視化してリアルタイムで把握しにくい現状があります。
製造業でDXを進めるメリット
DXは製造業との親和性が高いことで知られています。
代表的なメリットを4つ解説します。
生産性を向上できる
ITツールやIoT機器を導入して、生産管理業務を効率化させることで、生産性の向上が期待できます。
製造業でDXを推進することで、生産コストや人件費の削減などのメリットが生まれます。
具体的には、以下の作業で生産性の向上が期待できるでしょう。
- 受注入力や生産実績の記録
- 在庫状況管理
- 出荷実績の記録
DXの導入によってさらに製造工程がスムーズになり、従業員のミスが減少することで、生産品質が向上する点もメリットです。
業務上の負担が減ると、従業員のモチベーションアップにもつながります。
市場ニーズに合った製品の開発
DXによって部門間の連携を強化すると、リアルタイムで情報共有ができるため、市場ニーズに合致した製品の開発や製造がよりスピーディーに実現します。
製造業では多くの場合、営業やマーケティングによって市場ニーズを把握し、新製品の開発や製造をおこないます。
しかし、その市場調査には多大な時間がかかって、先行者利益の損失につながる可能性がありました。
デジタル化してデータを収集・分析することで、従来の方法よりも効率的に顧客の新たなニーズを汲み取ってビジネスを生み出せるようになります。
現場の属人化から脱却
DXによって属人性の高い技術をデジタル化すれば、誰もが一定水準で業務をおこなうことが可能になります。
製造業では高い技術が必要な業務ほど属人化される傾向が高く、後継者の育成や機械化が困難な状況があります。
近年の日本における少子高齢化の現状をふまえると、技術の継承は今後企業の存続にかかわる重大な問題になってくるでしょう。
DXによってベテラン技術者が有するノウハウや取り組みを集約し、AIを用いたケーススタディとして管理することは、現場の属人化からの脱却のみならず、業務の平準化や効率向上につながります。
新しい製品やサービスの開発
製造現場における各部門の連携がDXによって強化されると、生産性が向上し、新しい製品やサービスを開発するためにより多くのリソースが割けるようになります。
例えば、商品が故障しやすい状況や顧客ニーズを把握する際は、IoTセンサーの活用が便利です。
顧客に販売したデバイスや機器類にIoTセンサーを内蔵しておけば、納品後も稼働状況や消耗具合、故障状況などのデータを取得できます。
収集したデータを継続的に分析することで、新しい製品の開発に応用可能です。また、既存製品の品質向上や顧客へのアフターサービスなどに活かすこともできるでしょう。
製造業におけるDX推進の手順
製造業DXを成功に導くためには、段階的にDXを推進することが重要です。
製造業でDXを進める際の手順を具体的に解説します。
1.顧客を理解し、実現イメージを共有する
顧客を理解するには、まず製造現場を理解することが重要です。現場を正しく理解するためには、主に次の2つのポイントをおさえる必要があります。
- 現場で何が課題になっているのか(What)
- その課題を解決するためにデジタル技術をどう活かすか(How)
課題解決のための施策が決まったら、それらのイメージを現場と共有します。
経営層と現場の従業員とでは、DXに対して認識がズレている可能性があるため、現場に施策を共有する際には、「その施策が必要な理由」や「現場に与える影響」を具体的にイメージできるよう伝えることが大切です。
2.人材を確保し、データを収集する
製造現場や顧客を理解し、方向性を共有できたら、次は目標達成に必要なデジタル人材を確保します。
データ収集や分析をおこない、市場ニーズを把握しながらDX推進に必要なリソースの確保を進めることが重要です。
なお、人材の確保やツール選定で得られるアナログデータを、デジタル化して収集することは、「デジタイゼーション」と呼ばれています。デジタイゼーションでは主に、次の4つのポイントをおさえる必要があります。
- 課題意識をもってデータ収集する
- データ活用できるカタチにする
- 次のアクションへつなげる
- 他のデータと紐付けて活用する
これら4つのポイントを基準にした、継続的な改善方法を実践することで、製造業DXにおけるより良い製造基盤の構築を目指します。製造業DXでは製品の品質の良さだけでなく「顧客がもつ潜在的なニーズは何なのか」を基点とした、継続的な働きかけが大切です。
3.データを活用して業務効率化を図る
本格的なDXの活用の前段階として、局所的なIT化やデジタル化をとおして、業務の効率化を図ります。なお、収集したデータを活用し改善アクションにつなげることは、「デジタライゼーション」と呼ばれています。
DXが目指す究極のゴールは「ビジネスモデルの変革」です。しかし、その目標を実現するには多大なコストがかかります。短期間でおこなおうとすると、現場の混乱や過剰な投資をまねきかねません。よってDX推進は通常、長期的なプロジェクトにもとづく、小規模の改善から着手されることを覚えておきましょう。
4.DXを活用して顧客体験を変える
製造業DXは製品を顧客に販売して終わりではありません。納品後も継続的にDXを活用することで、顧客ニーズ変化に合わせた要求をタイムリーに反映し、ビジネスモデルを変革し続けます。
例えば、ITツールを活用した顧客満足度の測定や、CRM(顧客関係管理)、SFA(営業支援システム)などのツールを用いた品質とスピードの向上に関する施策に、DXの活用が有効です。
このような施策を用いて顧客対応の品質向上を図ることは、顧客満足度を高めることにもつながります。
製造業DXの実践事例3選
日本の製造業のなかでも、DXの実現に成功した実例があります。代表的な実践事例を3つ解説します。
工場内のモノの流れを可視化(ヤマザキマザック)
工作機器メーカーであるヤマザキマザック株式会社は、多様な種類の製品を少量ずつ生産する工場内で部材の物流管理を可視化する際にDXを活用しています。
例えば、BI(ビジネスインテリジェンス)を用いた、DXの推進があげられます。BIではすべての部材にタグをつけ、部材の滞在時間を色別で表示し、どこで部材が滞留しやすいか、直感的に把握できるようダッシュボード化することが可能です。
また、工場間の輸送ではトラックに部材を積載する時刻を記録し、部材の受け入れ準備をスムーズに実行できるようにしました。その結果、部材の輸送タイムラインが明確になり、在庫・資産管理や現場の生産性が向上しました。
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「RFIDタグで工場内のすべてのモノを可視化したい」現場の期待値を超え続ける、独自の物流管理BI「ID TRACKING PLUS」
スマートファクトリー化により生産性と品質向上(日本特殊陶業)
セラミック製品を手掛ける日本特殊陶業株式会社では、DXの推進に向け、IoTデータをリアルタイムで見える化する取り組みを進めています。
工場ごとにIoTデータを取得していた従来のやり方を変え、リアルタイムで高速にデータ解析ができる技術を導入したことで、現場状況の効率的な把握につながりました。
設備稼働や生産数を細かく可視化して得たデータ結果は、作業工程のボトルネックの早期解決の糸口としても活用されています。さらに、リアルタイムで数値が見えるようになったこと自体が、現場の意識改革にもつながりました。
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見える化によって設備総合効率を最大化スマートファクトリー化によって高い生産性・高品質を目指す
生産工程の可視化によりDXを推進(AGC 化学品カンパニー)
化学品事業を担うAGC株式会社 化学品カンパニーでは、DX推進室を中心に「見える化(可視化)」「わかる化(効果実感)」「変わる化(変革)」の3ステップによるDXを推進しています。
まず「見える化」の取り組みとして、生産の各工程で細分化されていた情報を集約し可視化することで、生産工程全体の最適化を進めています。
生産の各工程での情報が共有されることで、作業の優先順位や指標が明らかになり、データを元にメンバーそれぞれが納得感のある業務遂行を実現しています。
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生産工程で細分化されていた情報の可視化により、全工程を最適化
まとめ
製造業DXとは最新のデジタル技術を用いて、生産性や品質の向上、コストダウン、人手不足の解消を実現するための取り組みです。
DXと製造業は親和性が高い一方で、その導入には高度なIT人材の確保が必要です。
ウィングアーク1stの「MotionBoard」なら、データの収集・活用や自社製品の内製化、デジタル人材の育成活用など、製造業DXを実現するためのソリューションを提供できます。
今まで8,000社以上の企業に導入された実績があり、きめ細やかなサービスでDX導入から運用までサポート可能です。
製造業DXの導入をご検討の際には、お気軽にご相談ください。