導入事例

伊藤忠商事株式会社

伊藤忠商事株式会社

帳票の電子化はバックオフィスDXの第一歩
セキュリティ、ガバナンスに配慮して
請求書のWeb配信システムを短期間で構築

伊藤忠商事株式会社
業種

卸売・小売

大手商社の伊藤忠商事株式会社(以下、伊藤忠商事)では、ウイングアークの「invoiceAgent 文書管理」「invoiceAgent TransPrint」を活用し、請求書等の社外向け帳票をWebで配信できるシステムを構築した。従来方式である紙ベースでの請求書発行も並行して利用するため、誤って二重発行することのないような仕組みをアドオン開発するなど、セキュリティやガバナンスに配慮した設計を実現している。今後はユーザーの利用拡大を図るとともに、海外向けのDebit Noteに対してもWeb配信ができるよう計画している。

導入背景

伊藤忠商事では基幹システムの見直しの中で、帳票基盤についても2018年から見直しを進めてきた。そうしたなか、2020年春の新型コロナウイルス感染拡大防止のための在宅勤務に対応し、社員・取引先の安全・安心及び業務継続性の観点から、請求書をWeb配信する仕組みを早急に構築する必要がでてきた。

課題
  • 在宅勤務でも請求書を発送できるような仕組みが早急に必要だった
  • 電子化しても請求書の二重発行や改ざん防止など、セキュリティ、ガバナンスの担保が必要だった
解決策導入ポイント
  • invoiceAgent 文書管理とinvoiceAgent TransPrint導入による電子帳票のWeb配信を実現
  • 伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)およびウイングアークによるアドオン開発
効果
  • 請求書、請求明細、納品書等のWeb配信を実現し、在宅勤務での請求業務が可能となった
「invoiceAgent 文書管理」「invoiceAgent TransPrint」を導入し、請求書等の社外向け帳票のWeb配信システムを構築

在宅勤務で顕在化した請求書発行業務の課題


 伊藤忠商事では、2016年より次世代基幹システム構築プロジェクトを進め、帳票基盤についても2018年から見直しを進めてきた。紙帳票、電子帳票で基盤が別々になっていたものを、ウイングアークの文書データ活用ソリューション「invoiceAgent 文書管理」と印刷管理ソリューション「RDE」、両製品を統合管理する「SPA Integration Service」を活用して統合。ユーザーの業務効率を向上させるとともに運用メンテナンスも容易になった。この新しい帳票基盤は、「SPAIS」(Supreme reporting Platform for All ITOCHU Systems)と名付けられ、現在約2,000種類、決算のピーク時には、一日3万5千ファイルの帳票データが連携され、利用されている。


 この帳票基盤には、伊藤忠商事が取引先に向けて発行する請求書データも存在する。従来、請求書は、印刷センターで運用オペレーターが紙で印刷し、各取引部署に配送、それを営業部署が、お客様に郵送していた。この印刷オペレーションを営業部署のユーザー自身で印刷するオンデマンド印刷に変革するべく、プロジェクトを推進していた。その矢先、2020年春に新型コロナウイルス感染拡大の影響で在宅勤務を余儀なくされるなか、そもそもの紙運用での課題が顕在化した。


 多くの企業では、請求書発行業務は特定の管理部門が一括して行い、担当者も数名というのが多いはずだが、伊藤忠商事の場合は事情が異なる。伊藤忠商事の営業部署は約600課あり、それぞれが、様々な取引先を相手に商いを行っているため、請求業務についても、各営業部署にいる担当者が行っている。取引先・営業部署・担当者が多いことが特徴である。


 「各営業部署で行っている請求書発送業務は在宅で作業を完結できず、出社して作業しなければなりません。文書や帳票の郵送等、紙を中心とした企業間の取引は根強く残っており、郵送手続き等の作業のために、コロナ禍でも出社を必要とする社員が多いという状況でした」と話すのは、これまでも帳票基盤の刷新プロジェクトを推進してきた伊藤忠商事株式会社 IT・デジタル戦略部全社システム室の由村 友宏氏だ。


 そこで急遽、請求書のWeb配信の検討を始めることになる。緊急事態宣言下ではあったものの、電子帳票ソリューションを提供している各メーカーへの資料請求、電話での問い合わせ、セミナー受講などで情報を収集。各製品の機能・特徴を並べ製品選定を行った。その結果、選ばれたのがウイングアークの「invoiceAgent 文書管理」と「invoiceAgent TransPrint」の組み合わせだった。


 「他の製品には帳票のレイアウトが限られてしまうのもありますが、invoiceAgent TransPrintは既存のレイアウトで作成されたPDFファイルをそのまま利用できます。そのため、請求書レイアウトについては改めての要件定義は不要で、短期間に導入ができると考えました。また、タイムスタンプ機能を持っており、改ざん防止といったガバナンスの点でも高く評価しました」(由村氏)


伊藤忠商事株式会社 IT・デジタル戦略部 全社システム室 由村 友宏氏

課題となった、二重発行や改ざん防止


 invoiceAgent 文書管理とinvoiceAgent TransPrintの導入に向けて、まず2020年5月から、3つの営業課と取引先3社に協力をあおぎ、PoC(Proof of Concept:概念実証)を実施。ここでは、実際に導入するにあたっての懸念、解決すべき課題を洗い出した。


 「請求書のWeb配信において重要視していた要件は大きく2つありました。それは、紙の請求書との二重発行を防ぐことと、改ざんできない仕組みにすることです」と話すのは、伊藤忠商事の経理システムを企画する伊藤忠フィナンシャルマネジメント株式会社の川畑 篤史氏だ。


 ところが、当初、ウイングアークより提案されたファイル連携の方式は、伊藤忠商事の帳票基盤であるSPAISから請求書の電子データをユーザー自身が取り出し、それを手動で、社内のファイルサーバーに格納し、invoiceAgent 文書管理・invoiceAgent TransPrintへ連携するというものだった。ユーザー自身が取り出すということで、作業ミスや、二重発行、改ざんリスクが生じてしまうわけだ。


 これを解決しないことには、導入が進まないという状況だったが、システムの構築にあたるCTCやウイングアークと協議していくなかで、機能強化によって「ユーザーが印刷したりダウンロードしたりできない仕様」にする方法を編み出し、解決の道筋を立てることができた。


 「上位システムで請求書データを生成する際、それが紙出力用か、電子配信用かというフラグを持たせ、invoiceAgent 文書管理の検索機能を用いて自動で電子配信用データのみ抽出しクラウドサービスにアップロードする仕組みが構築できれば、短期間でも導入可能だという話になりました」(川畑氏)


伊藤忠フィナンシャルマネジメント株式会社 経理サービス部 経理システム企画室長補佐 川畑 篤史氏

 こうして、2020年9月に正式に導入が決定。2ヶ月後の11月に、まずは納品書、検収書、物品受領書、支払通知書などの請求書付属書類をWeb配信できるようにし、2021年3月に二重発行や改ざん防止の仕組みを追加したうえで請求書のWeb配信をリリースするというスケジュールを組んだ。


 「開発にあたって気をつけたのは、まずは全社で使えるようなシンプルな運用・機能にするということです。ユーザー側からするといろいろ要望もあるでしょうが、それを聞き出し、1つ1つ要件を決めていくウォーターフォール型の開発では、とても間に合いません。また、複雑な運用設計をしてしまうと、保守や組織変更時のメンテナンスも大変になります。まずは、クラウドサービスの特性を理解し、シンプルで標準的な使い方を定め、運用を始めることを優先させました」(由村氏)


利用者の利便性にも配慮して短期間で稼働を開始


 「ミスを防止するため、人手を介さず、invoiceAgent 文書管理に連携させたい」という声を受け、自動連携機能をアドオンで開発した。この機能は、事前に登録した条件に合致する帳票だけを連携させるために、SPAISのファイル検索・取得を実行するAPIを利用して実現している。


 これにより、ユーザーに負担がない運用の目途がたったことから、請求書を除いた帳票については、2020年11月に先行リリースすることが可能となった。


 11月の先行リリース以降は、さらなるセキュリティやガバナンス強化に関する開発にあてられた。


 前述した二重発行や改ざん防止に加え、取引先側がinvoiceAgent TransPrintの画面にログインする際には二要素認証機能が付加された。共通IDとパスワードによる管理ではセキュリティ対策が十分ではないという声があがったからである。


 また、PoC時に機能改善要望としてあがった、「1ファイルずつダウンロードしなければいけないのは手間」という声を受けたファイル一括ダウンロード機能や、配信ファイル単位で担当者が注意書きをつけるためのコメント機能を開発。これらは、クラウドサービスの標準機能として実装されている。


 一方、伊藤忠商事の独自要件として、ユーザーがExcelで作成した明細ファイルなどを、手動でアップロードするためのアップロード機能などをCTCが中心となり開発した。これにより、システム間の自動連携により配信される請求書と、その他のユーザーが作成した資料を取引先が同じinvoiceAgent TransPrint上で、ワンストップで入手可能となり、利用者の利便性を高めている。


 こうした過程を経て、2021年3月からは国内向け請求書や請求明細の電子化がスタートした。2020年9月の導入決定から約6ヶ月という短期間で本格運用にこぎつけることができた。


 構築にあたったCTCの山口 智之氏は、「通常であれば1年から1年半は要しそうなプロジェクトですが、関係する皆様の協力もあり、またベースの機能が充実していることもあって短期間で構築できました。稼働後は、ユーザーがログインできているか、取引先がダウンロードできているかといった利用状況の確認など運用面でのきめ細かいサポートを行っています。今後、障害検知や利用状況の確認・分析などの機能強化が図られることを期待しています」と、プロジェクトを振り返る。また、保守を担当するメンバーを途中からプロジェクトに迎え入れ、共に論点検討を行ったことで、保守のスムースな体制移行を実現させたという。


伊藤忠テクノソリューションズ株式会社 流通プロジェクト推進事業部 次世代基幹プロジェクト推進部 次世代基幹システム開発第7課 主任 山口 智之氏

 さらに、本プロジェクトのリーダーを務めたCTCの工藤 啓之氏は、今後に向けての課題を語る。「グローバルにビジネスを展開する総合商社においては、海外向けの請求書(Debit Note)についても、電子配信のニーズが高いことが分かりました。ウイングアークには、英語対応機能を実装するべく協議をしています。お客様とは、海外向けに配信することに合わせた運用の高度化・効率化も進めていきたいと思います。」


伊藤忠テクノソリューションズ株式会社 流通第1本部 商社システム営業第2部付 工藤 啓之 氏

 展開・運用にあたっては、社員に対して電子帳票に関する説明を丁寧に行っていく必要があると由村氏は話す。


 「電子化によって在宅勤務が可能になることで、『電子化=すごく便利になる』という期待が高まりますが、一方で紙の帳票では当たり前にできていたことが、できなくなることもあります。例えば、紙の請求書を郵送する場合だと、付箋にメモを書いて、好きな箇所に貼布できますが、電子帳票ではできません。できなくなることも多いと聞いて電子帳票に対する不安を抱く人もいるため、きちんと説明を行い、正しく理解をしてもらうことが必要となります」


 また、社内や取引先へ展開していくうえでのポイントについて、伊藤忠フィナンシャルマネジメント 濱畑 洋明氏は次のように話す。


 「社会的にペーパレス化や電子化は叫ばれているものの、実態としてはまだ紙ベースも数多く存在しています。一足飛びにWeb配信に変えるのではなく、オプションとしてWeb配信を用意しておき、社内の請求担当者や取引先がやりたいと思ったときに移行できる体制にしておくことが重要なのだと思います」


 


伊藤忠フィナンシャルマネジメント株式会社 経理サービス部 経理システム企画室 主任 濱畑 洋明氏

帳票の電子化はバックオフィスのDXの第一歩


 請求書のWeb配信がスタートし、利用するユーザーも着々と増加している。ある営業部門では取引先200社以上にアンケートを行い取引先の意向を聞くなどして、利用拡大を図っている。


 「請求書発行業務のように、毎日当たり前に行っている定型作業は、特に改善しなくてもいいと思いがちです。今回のWeb配信システムを私たちが促すのではなく、営業部門が自分たちで、これを使えば効率化できる、リモートでも仕事ができるようになると考えてくれることを期待しています」(川畑氏)


 「昨今、デジタルトランスフォーメンション(DX)が叫ばれていますが、足元の業務をデジタル化により、地道に見直していくことが大切だと思います。請求書発行業務でいえば、請求書をペーパレス化することで、請求書の受領確認やリードタイムが見える化されます。これによる業務効率化もありますが、見える化された情報を活用することで、変革のヒントを見つけられ、トランスフォーメーションにつながるのだと思います。」(由村氏)


※2021年6月より「SVF TransPrint」は「invoiceAgent TransPrint 」に名称を変更しました。
※2022年6月より「SPA」および「SPA Cloud」は「invoiceAgent 文書管理」「invoiceAgent AI OCR」に名称を変更しました。


Company Profile

伊藤忠商事株式会社

伊藤忠商事株式会社
創業:1858年
所在地:東京都港区
事業内容:繊維、機械、金属、エネルギー、化学品、食料、住生活、情報、金融の各分野において国内、輸出入および三国間取引を行うほか、国内外における事業投資など幅広いビジネスを展開
URL :https://www.itochu.co.jp/

伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
創立:1972年4月1日
所在地:東京都千代田区
事業内容:コンピュータ・ネットワークシステムの販売・保守、ソフトウェア受託開発、情報処理サービス、科学・工学系情報サービス、サポート、その他
URL :https://www.ctc-g.co.jp/

(写真右より)
伊藤忠フィナンシャルマネジメント株式会社
経理サービス部
経理システム企画室 主任
濱畑 洋明 氏

伊藤忠フィナンシャルマネジメント株式会社
経理サービス部
経理システム企画室長補佐
川畑 篤史 氏

伊藤忠商事株式会社
IT・デジタル戦略部 全社システム室
由村 友宏 氏

伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
流通第1本部 商社システム営業第2部付
工藤 啓之 氏

伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
流通プロジェクト推進事業部 次世代基幹プロジェクト推進部
次世代基幹システム開発第7課 主任
山口 智之 氏

導入製品

既存システムを変えることなく、請求書・支払通知書・注文書・納品書などのあらゆる企業間取引文書の電子化と配信・返信が可能。取引に紐づく文書の一元管理やインボイス制度・電子帳簿保存法にも対応する電子取引サービスです。

あらゆる帳票の仕分けから保管、検索、他システムとの連携も可能な文書管理ソリューションです。

 
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