証跡の基礎知識
まずは基礎知識として、証跡の意味や証憑との違いについて確認していきましょう。
証跡とは?
証跡(しょうせき)とは、広義では「証拠となる痕跡」を意味します。
ビジネスにおける証跡は、主に業務プロセスや従業員の行動、ITシステムによる処理などが、あらかじめ規定されたルールに従っているかどうかを客観的に示すための記録を指します。
事業活動における不正やトラブルを防止し、組織内外に経営の健全性を示すためには、証跡を残すこと、そして証跡を適切に管理することが非常に重要だと言えます。
証憑との違い
証跡とよく似た用語に、証憑(しょうひょう)があります。
証憑とは取引の成立を証明する書類を指し、金銭に関わる書類のほか、人事や労務に関する一部書類も該当します。
証跡は「業務全般の適切性を証明する記録」であるのに対し、証憑は「(主に会計分野の)取引に関する記録」という点が違いであり、証憑は証跡の一部とも言うことができるでしょう。
以下の記事では証憑について詳しく解説しているので、あわせてお読みください。
証跡管理の目的
証跡管理には、以下のような目的があります。
- 不正の防止・検知
- 監査での証明
- 上場に向けた内部統制強化
次は、証跡管理の目的について詳しく確認していきましょう。
不正の防止・検知
証跡管理に取り組む目的のひとつに、不正の防止・検知を挙げることができます。
コーポレートガバナンス(Corporate Governance:企業統治)やCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)といった考え方が広く浸透するなど、企業経営の健全性は以前に増して重要視されています。
そうしたなか、従業員や組織ぐるみの不正を防止・検知するために必要な取り組みが、証跡管理です。
証跡管理に取り組み、従業員の業務内容やITシステムによる処理などを記録することで、不正の抑止力となります。
また、万が一不正が発生した際も、速やかに検知して原因究明に取り掛かることができます。
監査での証明
監査の際に、対象となる事柄の適切性・真実性を証明することも、証跡管理の役割のひとつです。
会計処理や決算報告の適切性を評価する「会計監査」や、情報システムの安全性や運用の合理性を評価する「システム監査」などを実施している企業も多いことでしょう。
これらの監査の際に証拠となる情報は監査証跡と呼ばれ、社内に保存してある証憑類や、システムに残された操作ログやアクセスログなどが監査証跡として利用されます。
上記のような監査証跡を適切に管理し、必要に応じて参照できる状態にしておくことで、業務の適切性・真実性を客観的に示すことができ、監査対応を効率的に進めることが可能になります。
上場に向けた内部統制強化
先述した不正の防止・検知、および監査での証明とも共通しますが、上場に向けた内部統制強化の面でも証跡管理は必要です。
上場企業および上場を目指す企業においては、内部統制の整備が必要不可欠です。内部統制とは、「企業が経営目標を達成するために、事業活動を健全かつ効率的に運営するための仕組み」のこと。そして、内部統制は「業務の有効性および効率性」「財務報告の信頼性」「事業活動に関わる法令等の遵守」「資産の保全」という4つの目的が存在しますが、これらすべてにおいて証跡管理の仕組みが必要です。
上場企業においては「内部統制報告制度(J-SOX法)」によって事業年度ごとに「内部統制報告書」の提出が義務付けられていることから、上場企業および上場を目指す企業にとっては証跡管理は必要不可欠だと言えるでしょう。
証跡の保存期間
ここまで証跡管理の意味や目的についてご説明してきましたが、どれくらいの期間にわたって証跡を保存する必要があるのでしょうか。
結論から言うと、証跡の種類や、法令・ガイドラインによって保存期間が異なります。
たとえば、請求書や契約書といった証憑書類の多くは、会社法や法人税法によって5年から10年の保存が義務付けられています。
また、システムログについては明確な基準が定められていないため、各種法令やガイドラインを参考に、独自に保存期間を設定する必要があります。
独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)が2016年に公開した「企業における情報システムのログ管理に関する実態調査」の報告書では、ログの重要度に応じて保存期間を変えるという考え方について言及しています。
具体的には、IDS/IPSやプロキシサーバー、ドメインコントローラー、ファイルサーバーなどのログは1年間保存し、それ以外のログは3か月間保存、という例が挙げられています。
(参照:「企業における情報システムのログ管理に関する実態調査」報告書について|IPA 独立行政法人 情報処理推進機構)
証跡管理の重要性が高まっている理由
近年、以下のような社会的背景から、今まで以上に証跡管理の重要性が高まっています。
- IT化の進展
- テレワークの普及
- 電子帳簿保存法の改正
次は、証跡管理の重要性が高まっている理由について詳しく確認していきましょう。
IT化の進展
IT化の急速な進展により、ビジネスシーンにおいてもITシステムの活用が不可欠となりつつあります。
とくに近年はDXの動きが活発化しており、ITシステムの利用範囲は今後ますます拡大していくことが予想されます。
一方で、機密情報の流出やシステム破壊といった被害をもたらすサイバー攻撃の手口は年々巧妙化しています。また、組織内部からの不正アクセスや重要データの改ざんといったリスクも無視できません。
こうしたリスクに備えるためには、ITシステムにおける証跡管理に取り組み、不正を防止・検知するセキュリティ体制を整える必要性が高まっているのです。
テレワークの普及
テレワークの普及もまた、証跡管理の重要性が高まっている要因のひとつです。
働き方改革の活発化や、新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあり、以前よりもテレワークが浸透しつつあります。
テレワークでは、紙文書での情報共有や承認作業、取引先への送付、仕分け・保管などを行うことが困難なため、ITシステムによる業務の電子化が不可欠です。
ただし、先述した通り、ITシステムを使った業務では証跡管理が非常に重要になります。
また、従来のオフィスワークでは、従業員がルールに従って業務を行っているかどうかを直接監視することができますが、テレワークではそれが困難です。
ITシステム利用におけるセキュリティはもちろん、労務管理の観点でも「いつ」「誰が」「何をしたか」という証跡管理の重要性が高まっているのです。
電子帳簿保存法の改正
近年の電子帳簿保存法の改正もまた、証跡管理の必要性が高まる要因のひとつだと言えます。電子帳簿保存法とは、国税関係帳簿書類の全部または一部について、電子データ(電磁的記録)による保存を認める法律のこと。
電子帳簿保存法には、「真実性の確保」と「可視性の確保」という2つの要件が定められており、このうち「真実性の確保」は保存したデータに改ざんが加えられていないことを証明するための要件です。つまり、電子帳簿保存法で求められる「真実性の確保」を満たすには、証跡管理の仕組みが必要だと言えます。
2022年1月に電子帳簿保存法が改正されたことで、電子的に授受した取引情報については電子データのまま保存することが原則となりました。つまり、電子取引を行っている企業は電子帳簿保存法への対応が必要であり、「真実性の確保」を満たすための証跡管理の仕組みを整える必要があります。
文書の証跡管理なら「invoiceAgent 文書管理」
ここまでは、証跡管理の目的や重要性について説明してきました。
次は、証跡管理に役立つ具体的なソリューションとして、ウイングアークが提供する「invoiceAgent 文書管理(インボイスエージェント文書管理)」をご紹介します。
「invoiceAgent 文書管理」は、電子帳簿保存法に対応する文書管理ソリューションで、従来書面で管理していた情報資産のセキュリティ強化や監査対応の効率化を実現します。
OCR(光学的文字認識)機能でデータ化した文書や、他システムで出力した電子文書をまとめて取り込み、あらかじめ指定したルールに基づき自動で仕分け・保管を行います。保存した文書には改ざん防止のためのタイムスタンプが付与されるほか、高度な検索機能で必要な情報を速やかに参照・出力することができます。
また、証跡管理機能によって「いつ」「誰が」「何をしたか」といったログを確認することも可能です。文書の保存期間に応じた自動削除機能も備わっているため、文書のライフサイクルマネジメントを効率的に行うことができるでしょう。
さらに、連携アダプターやWeb APIを活用することで、さまざまなシステムと連携して文書管理を行うことも可能です。
「invoiceAgent」シリーズの他製品や、同じくウイングアークが提供する帳票基盤ソリューション「SVF Cloud」と組み合わせることで、帳票の出力からデータ化、保管、企業間での配信・受領まで一気通貫でデジタル化を実現します。
「invoiceAgent 文書管理」の導入事例
最後に、「invoiceAgent 文書管理」を実際に導入し、証跡管理や監査対応に役立てている企業の事例をご紹介します。
ワークフローデータを可視化する「案件照会システム」を構築(ジャムコ)
航空機の内装品の製造を手掛ける株式会社ジャムコは、「invoiceAgent 文書管理」を導入して、社内のワークフローデータを可視化する案件照会システムを構築しました。
同社では、日々の業務で発生する申請・承認作業をワークフローシステムを通じて行い、そのデータをサーバーに保存していました。
しかし、社員は自分が携わったワークフローしか検索・参照することができず、情報共有のハードルが高くなっていました。また、過去のワークフローデータの見読性や容量にも課題を感じていました。
そこで同社は、「invoiceAgent 文書管理」を活用した案件照会システムの構築に着手しました。
PDF化したワークフローデータを「invoiceAgent 文書管理」に格納することで、社員は過去の申請・承認に関する証跡を検索・参照することが可能になりました。
また、PDF化して保存することで見読性が担保され、保存の必要がないワークフローデータを消去することで容量の課題も解消されました。
この案件照会システムの構築によって、社内の知見を共有できる体制が整ったほか、監査対応の省力化にも大きな効果を得ています。
▼事例詳細はこちら
株式会社ジャムコのinvoiceAgent導入事例をもっと見る
電帳法対応を実現し、監査対応への効果も期待(ロジクエスト)
『あらゆる届けるを解決する』という理念を掲げる株式会社ロジクエストは、物流業界に根強く残る紙文化からの脱却を図り「invoiceAgent」を導入しました。
同社には、全国5,500以上の直接契約ドライバーや協力会社から毎月7,000枚の月報兼請求書が集まり、紙ベースで運用しているため管理が煩雑化していました。
紙の帳票運用による課題を解消するため、電子帳簿保存法への対応も視野に入れつつ、「invoiceAgent」によるペーパーレス化に着手しました。
「invoiceAgent」導入により、書類検索の効率化や紙のコスト削減に効果を実感。また、監査対応時に過去の証憑書類を確実に取り出せる体制を整えることができました。
さらに、今後は電子化する帳票の範囲を拡大し、電子帳簿保存法およびe-文書法への対応も進めていく想定です。
▼事例詳細はこちら
株式会社ロジクエストのinvoiceAgent導入事例をもっと見る
まとめ
今回は、証跡の意味や目的・重要性、さらには証跡管理を効率化するソリューションや事例をご紹介しました。
ITシステムの活用が当たり前となりつつある昨今、証跡管理の重要性は一層高まっています。
今回ご紹介した情報も参考に、「invoiceAgent」で証跡管理に取り組んでみてはいかがでしょうか。